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《 改定 第3章 ―第2ステップ― 》
第2ステップでは、系あるいは部分系の質量中心の運動を解析する具体的な例として、物体が天体から重力の作用を受けて運動する場合をとり上げます。天体の多くは球形をしています。そこで近似的に質量が球の中心のまわりに球対称に分布すると仮定すれば、天体が周囲の空間に及ぼす重力は非常に簡単に表されます。
このような重力の作用を受けている物体について、一番目の例では地球を出発したロケットの運動≠、二番目の例では太陽系の惑星の運動≠、三番目の例では地球表面付近の物体の運動≠とり上げます。
質量が球対称に分布する球体から及ぼされる重力
私たちが夜空を見上げると、晴れた日には、星が天空に光る点として貼り付いているように見えます。それらの多くは、われわれの地球を含めて球形をしています。そこで簡単のため 形が球≠ナ、内部の質量が球の中心のまわりに球対称に分布する球体を考えます。以後、このような球体から成る理想化された天体≠用いて話を進めることにします。
空間に 半径
R の一つの球体があり、その質量
M は 球の中心 O の回りに球対称に分布しているとします。質量中心の定義式 <式 2-4 > (
) を用いると、この球体の質量中心の位置は 球の中心 O に一致することが確かめられます (
《 密度が一様で単純な形の物体の質量中心 》を参照) 。
この球体が周囲の空間に及ぼす重力(
万有引力)を求めるために、空間に 球体と比べて十分に小さい微小な物体≠置いたと想定し、これが球体から受ける重力を計算します (
このような微小な物体のことを、試験物体≠ニ呼ぶことがあります)。その計算の詳細については
《 質量が球対称に分布する物体が及ぼす重力の計算 》
に示します。この計算の結果として、次の非常に簡明な結論が得られます;
『 微小な物体が 球体の中心O から 距離 r の位置に置かれたとき、それに球体が及ぼす重力は、O を中心とする 半径 r の球の内部にある全ての質量を O に集めた仮想的な質点≠ェ及ぼす重力に等しい 』
この結論によれば、球体の中心O に置いた質量
M の仮想的な質点が 微小な物体に重力を及ぼすと考えれば良いことになります。ゆえに 微小な物体が球体から受ける重力は、微小な物体のいる場所から O に向けた引力≠フ方向になります。引力の大きさは微小な物体がいる場所が 球体の内部か外部か≠ナ異なり、次のようになります:
◇ 微小な物体が球体の内部にいるとき(
r≦
R):
微小な物体が、球体の中心O から 距離 rA だけ離れた球体の内部の A点 にいるとします。半径 rA の球の内部にある質量を M A とすれば、位置A に置かれた 質量m の微小な物体が球体から受ける重力の大きさは
GmM A/rA 2 (微小な物体が A点 で受ける重力の大きさ)
となります。ここに G は万有引力の定数 です。
◇ 微小な物体が球体の外部にいるとき(
r≧
R):
微小な物体が、球体の中心O から 距離 rB だけ離れた球体の外部の B点 にいるとします。半径 rB の球の内部にある質量は、球体の質量 M に等しいは明らかです。ゆえに、位置B に置かれた 質量m の微小な物体が球体から受ける重力の大きさは
GmM/rB 2 (微小な物体が B点 で受ける重力の大きさ)
となります。
重力が作用する方向は、微小な物体から 球体の中心O を向く引力の方向です。その方向の単位ベクトル≠
er とすれば、微小な物体が球体から受ける重力は次のようになります:
◇ 微小な物体が球体の内部にいるとき
{ GmM A/rA 2 } er (微小な物体が A点 で受ける重力)
◇ 微小な物体が球体の外部にいるとき
{ GmM/rB 2 } er (微小な物体が B点 で受ける重力)
〔 図 3-3 〕 に、微小な物体 (
青色の丸) が球体の内部にいるとき ( (a) ) 、および、 球体の外部にいるとき ( (b) ) のそれぞれの場合について、球体から及ぼされす重力を(
矢印付きの赤い)ベクトルで示します。重力の方向は 球体の中心O を向きます。
球体の中心 O から微小な物体の位置までの距離を
r とすると、重力の大きさは
r とともに、次のように変化していきます:
〇 r→0 のとき、重力の大きさは ゼロ に収束します。
〇 r が増加すると、重力の大きさは r=R に至るまで単調に増大します。r=R に達すると、重力の大きさは外部の値と連続的に繋がります。
〇 r>R(球体の外部)では、重力の大きさは r の2乗の逆数の形( r−2 )で単調に減少します。
微小な物体が球体から受ける重力は、測定機を
r の位置に置いて、次のように重力を測った場合に相当します。すなわち
・ 球体の内部(r≦R)では、物質のなかに小さな空洞を作り、その中に測定機を置いて測定します。
・ 球体の外部(r≧R)では、空間に測定機を置いて測定します。
中心力を受けた物体の運動 と 二つの保存則
質量が球対称に分布する一つの球体があるとき、それから重力を受けている微小な物体の運動を考察します。
微小な物体の質量は、球体の質量よりも極めて十分に小さいとします。このとき 球体が微小な物体から受ける重力は十分に小さいので、球体の加速度は 0 であると見なせます
(注 3-2 )。したがって 球体は一般には一定の速度で 空間を移動しますが、簡単のため その速度を 0 に選ぶことにします。すなわち、球体は空間で静止した状態≠ニします。このような球体から重力の作用を受ける物体の例を挙げてみます:
〇 地球表面の上方において、高所から落下する物体、空を飛ぶ鳥や航空機、宇宙空間を飛行するロケット。
〇 地球のまわりを回る衛星の月。
〇 太陽のまわりを回る太陽系の各々の惑星
この例のうち、地球表面の上方の高所から 落下する物体 とか 空を飛ぶ鳥 や 航空機 は、地球の重力を受けるだけでなく、大気から接触力も受けます。したがって、その運動はかなり複雑なものになります。これに対して 宇宙空間を飛行するロケット、地球のまわりを回る月、太陽のまわりを回る惑星 などは、ほとんど重力(
万有引力)だけを受け、接触力の作用は十分に小さくて無視することができます。したがって、その運動はかなり簡単になります。
この では、接触力を考慮しない簡単な場合、すなわち地表面付近で空気抵抗を受けない物体の運動=A宇宙空間を飛行するロケットの運動=A太陽のまわりを回る惑星の運動 などの例をとり上げます。
〔 図 3-4 〕 に、質量が球対称に分布する一つの球体 と それから重力を受けている物体を示します。これは 前図で右側に示した〔 図 3-3 〕の (b) と基本的に同じ図ですが、球体は空間で静止し、物体の質量や大きさは球体に比べて十分に小さいと見なします。この図では 球体の外部に存在する物体を P とし、球体の中心 O から P に向いた位置ベクトルを
r、物体Pが球体から受ける重力を
F と表しました。
・ 物体の質量や大きさは球体に比べて十分に小さいと言っても、あくまで相対的な比較であって、物体そのものの質量や大きさが必ずしも小さい事を意味しません。例えば 地球と月 の例では、月は人間の身体に比べて非常に大きいけれども、一方では地球に比べて十分に小さいものです。
質量
m の物体Pが 質量
M の球体から受ける重力は
F ={ GmM/r 2 }(r/r)
(球体の中心から距離が r だけ離れた物体が受ける重力)
と表されます。物体Pの運動方程式は
m(dv/dt) = F
(物体の運動方程式)
となります。ここに
v は物体Pの速度で、時間
t に関する物体Pの位置ベクトルの1階の微分;
v=
dr/
dt (物体の速度)
で与えられます。
上記の (球体の中心から距離が
r だけ離れた物体が受ける重力) を見ると、物体Pに作用する力は常に球体の中心方向を向き、その大きさは 距離
r の関数になっています。このような力を、
中心力(
central force)といいます。
中心力を受けている物体の運動では、二つの力学量が時間的に一定の量に保存されます。一つ目の力学量は 物体の
角運動量(
angular momentum)であり、二つ目の力学量は 物体の
力学的エネルギー(
mechanical energy)です。
◇ 物体の角運動量は、物体の運動量を
p =
mv とすると、
r と
p のベクトルの外積(
《ベクトルの外積》 を参照);
r × p (物体の角運動量)
で定義されます。物体の角運動量 は時間とともに変化しない保存量であることを、
《 中心力を受ける物体の運動 および 保存則 》 で説明します。文章で示せば
『 中心力を受ける物体の角運動量は一定の量に保存される 』
となります。すなわち
r × p = 一定 ( 物体の角運動量の保存則 )
が成立します。これを「物体の角運動量の保存則」といいます。
物体の角運動量の保存則 から、
m が一定量なので、ベクトルの外積
r ×
v の方向 および 大きさ が時間的に変化しない量であることが分かります。
r ×
v の方向を
z軸 に選び、それに垂直な二つの方向に
x軸 と
y軸 をとって、直交座標系(O
xyz)を設定します。
〔 図 3-5 〕 に、このように定めた直交座標系(O
xyz)を示します。
z軸 の方向が時間的に不変なので、物体Pは
x−
y平面 (
[ 図 ] に黄色で示す) に沿って運動し、この平面から逸脱することはありません。
◇ ベクトルの外積
r ×
v の大きさは、その
z軸成分 に等しく
{
r ×
v}
z =
xvy−
yvx
となり、これが一定の量
h;
xvy−
yvx =
h
に保存されます。ここに
vx =
dx/
dt および
vy =
dy/
dt です。この式の両辺に物体の質量
m を乗じると、物体の角運動量の保存則は
m(xvy−yvx) = 一定 ≡ mh (物体の角運動量の保存則)
と表すことができます。
◇ 物体の力学的エネルギーは、次の量;
(1/2)mv2 − GmM/r ( 力学的エネルギー )
で与えられます。物体の力学的エネルギー は時間的に変化しない保存量であることを、
《 中心力を受ける物体の運動 および 保存則 》 で説明します。このうち 第1項の (1/2)
mv2 を
物体の運動エネルギー (
kinetic energy ) といい、第2項の
GmM/
r を
物体のポテンシャル・エネルギー (
potential energy ) といいます。ここに
v2 =
vx2+
vy2
です。文章で示せば
『 中心力を受ける物体の力学的エネルギーは一定の量に保存される 』
となります。すなわち保存される量を
E と記せば
(1/2)mv2 − GmM/r = 一定 ≡ E (物体の力学的エネルギーの保存則)
が成立します。これを「物体の力学的エネルギーの保存則」といいます。
・ 物体の力学的エネルギー保存則は、一般には
(1/2)mv2 + U(r) = 一定 = E ( 物体の力学的エネルギーの保存則a )
と表されます。ここに U は「ポテンシャル」と呼ばれ、OP間の距離r の関数です。
・ ポテンシャル U は、物体に作用する力 F の座標成分と次の関係があります。すなわち、物体の作用する力 F の x座標成分を Fx とし、y座標成分を Fx とすれば
Fx = −∂U/∂x, Fy = −∂U/∂y ( 力とポテンシャルの関係 )
となります。
上記の( 物体の力学的エネルギーの保存則 )は、物体が〔 図 3-4 〕に示した万有引力のポテンシャルエネルギー;
U = −
GmM/
r
を受けている場合に相当します。
( 注 3-2 )正確に述べれば、球体と微小な物体から成る系≠フ質量中心の加速度が 0 になります。ここでは微小な物体の質量が非常に小さいとしているので、球体の加速度を 0 と近似できます。
重力を受けた物体の軌道
物体が中心力の作用を受けて運動するときには、上述の〔 図 3-5 〕に示したように、物体は
z軸 に垂直な
x−
y平面 に沿って運動します。物体が重力の作用を受けている場合には、この平面に沿って 二つの保存則 が成立します。再掲すれば
m(
xvy−
yvx) = 一定 ≡
mh (物体の角運動量の保存則)
(1/2)
mv2−
GmM/
r = 一定 ≡
E (物体の力学的エネルギーの保存則)
となります。
二つの保存則を 直交座標系( O
x>
y )から 極座標系( O
rφ )に変換すると便利です。二つの座標系を
〔 図 3-6 〕 に示します。
◇ 物体の位置は 直交座標系における x−y平面 の P点 にあります。線分OP の長さを r とし、この線分が x軸 となす角度を φ とすれば、これらの変数の間には次の関係があります:;
x = r cosφ,
y = r sinφ ( 直交座標系と極座標系の位置座標 )
◇ 直交座標系と極座標系の速度の間には、次の関係があります;
vx=(dr/dt)cosφ−(dφ/dt)rsinφ.
vy=(dr/dt)sinφ+(dφ/dt)rcosφ ( 直交座標系と極座標系の速度座標 )
角運動量の保存則 と 力学的エネルギーの保存則 は、直交座標系の座標成分から極座用系の座標成分に書き換えることができます。その方法を、
《 極座標で表した二つの保存則 》 において説明します。その結果は次のようになります:
m [ r 2(dφ/dt) ] = mh
(極座標で表した物体の角運動量の保存則)
m [(1/2) (dr/dt)2
+h 2/(2r 2) −GM/r ] = E
(極座標で表した物体の力学的エネルギーの保存則)
極座標で表した 二つの保存則 は、変数
r と
φ の時間
t に関する1階の微分方程式になっています。それを解いて 変数を時間
t の関数として
r(
t),
φ(
t)
を得れば、物体が時間とともに空間をどのように進行するかを知ることができます。変数から
t を消去すれば 直接に
r と
φ の関係が得られて、それが物体の軌道の式≠ノなります。
上述の 極座標系で表した二つの保存則 から 時間
t を消去すると、変数
r を 変数
φ で表した次の式;
r = s/{1+εcos(φ−β} ( 物体の軌道を表す式 a )
が導き出されます。これを導く方法を、
《 重力の作用を受けた物体が描く軌道 》 に示します。
( 物体の軌道を表す式 a )の
ε と
s は、それぞれ、
離心率 (
eccentricity) および
半直弦 と呼ばれ、保存則における二つの定数
h と
E を用いて
s ≡ h 2/(GM) ( 半直弦 )
ε ≡ {1+ 2Eh2/(G 2M 2m)}1/2 ( 離心率 )
と表されます。
ε と
s は正の量であり、
β は任意の大きさの
位相角 です。
ここで
θ =
φ−
β ( θ と φ の関係 )
と置けば、( 物体の軌道を表す式 a ) は
r = s/(1+εcosθ) ( 物体の軌道を表す式 )
となります。
( 物体の軌道を表す式 )には、半直弦
s と 離心率 ε の二つのパラメーターがあります。
◇ 離心率 ε と 力学的エネルギー
E は、上記の ( 離心率 ) の式 によって結ばれています。
E は運動エネルギー と ポテンシャル・エネルギー の和として与えられ、運動エネルギー は正の量で ポテンシャル・エネルギーは負の量です。ゆえに次の三つの場合;
(a) 運動エネルギーの大きさ < ポテンシャル・エネルギーの大きさ
(b) 運動エネルギーの大きさ > ポテンシャル・エネルギーの大きさ
(c) 運動エネルギーの大きさ = ポテンシャル・エネルギーの大きさ
に応じて、力学的エネルギーの
E は
(a) E < 0、 (b) E > 0、 (c) E = 0
となり、これは 離心率ε について
(a) ε < 1、 (b) ε > 1、 (c) ε = 1 ( 離心率の大きさの三つの場合 )
の場合に相当します。
円錐曲線 −楕円、双曲線、放物線−
球対称の質量分布をしている球体から重力を受けた物体は、上述したように、( 軌道を表す式 ) の示す軌道曲線に沿って運動します。この ( 軌道を表す式 ) は、ヨハネス・ケプラー(
1571−1630)が 太陽系における惑星の運動に関する膨大な観測データの解析を通して見出したものであり、さらに ニュートン( Sir Isaac Newton (
1642年−1727年)が 運動方程式 (
運動の第2法則 ) と 万有引力の法則 を結びつけて力学的に%アき出したもので、ニュートン力学における大きな成果の一つであると言われています。
ところが ( 軌道を表す式 ) と実質的に同じ曲線が、はるか昔に アポロニウス (
紀元前262年ー200年?) ) の著作に示されていたのは実に驚くべきことです。彼の著作の「円錐曲線論」では、次のように述べられています:
◇ 一つの 円錐 (cone) を平面で切ったときに、切断面には
楕円 (ellipse)>、 円 (circle)、 双曲線 (hypabola)、 放物線 (parabola)
の図形ができる。
◇ 切断した平面上に定点である 焦点(focus) を二つとると、楕円は二つの焦点からの距離の和が一定となる図形≠ナあり、双曲線は二つの焦点からの距離の差が一定となる図形≠ナある。
このような曲線は、
円錐曲線 (
conic curve) と呼ばれています。
〇 アポロニウスは、アレキサンドリア(エジプトの北部のナイル川の河口に在る街)で活躍しました。彼は 少し前に発行されていたユークリッドの幾何学≠用いて、円錐曲線の諸特性を研究しました。
〇 円錐曲線論は アポロニウス や ユークリッド などの多くの人たちによって、幾何学的な考察を通して純粋に図形の性質として研究されました。中世に入ると それは地中海世界からアラブ世界やインドに引き継がれ、12世紀のルネサンス期に西欧社会に復活して再び研究が始まりました。円錐曲線に関するこうした歴史的な経緯は、《 参考資料 3-3 》 に詳しく解説されています。
アポロニウス の時代から 1000年近くを経て、ガリレオ・ガリレイ (
1564年-1642年)、ケプラー、ニュートン などによって重力を受けた物体が空間で描く軌道は 円錐曲線 である≠アとが明らかにされました。近代になって 円錐曲線が再認識されたのです。この時代になると、座標系、定数や変数で表した式、さらに 方程式や微分方程式 などが導入されて、物体の運動が精密で簡潔に表されるようになりました。
幾何学的な方法でアポロニウスらによって得られた円錐曲線は、二次元の極座標系 ( O
rθ ) を用いると
r = s/(1+εcosθ) (円錐曲線の式)
となります。これは、上述の力学的な方法で見出された (軌道を表す式) と同一になります。図形的に見出されたこの式 (
力学的に見出された式と形が同じですが ) を、改めて「円錐曲線の式」と呼ぶことにします。
(円錐曲線の式 )は、離心率
ε と 半直弦
s の二つのパラメーターを有しています。曲線の形状は、離心率
ε の大きさに応じて
楕円;ε<1、 双曲線;ε>1、 放物線;ε=1 (離心率と円錐曲線の関係)
となります。楕円は二つの焦点からの距離の和が一定となる図形≠ナあり、双曲線は二つの焦点からの距離の差が一定となる図形≠ナす。円錐の切断面に現れる図形が (円錐曲線の式) で表されることを、
《 円錐の切り口の図形 》 で説明します。
(円錐曲線の式) を、[ 図 3-6 ] に示した二次元の極座標 ( O
rθ ) から 直交座標系 ( O
xy ) に変換します。さらに
x軸上に Q点 をとり、これを原点とする 直交座標系 ( Q
x'
y' ) を設定します。ここに
x'軸 は
x軸 に平行に、
y' 軸は
y 軸に平行にとります。
このようにして (円錐曲線の式) を 直交座標系 ( Q
x'
y' ) の座標成分を用いて表すと、これらの曲線は 私たちに馴染みのある「楕円の標準形」、「双曲線の標準形」、「放物線の標準形」になります。これを導く方法については、
《 楕円、双曲線、放物線の標準形 》 で説明します。
以下において、これらの曲線の形状を示します:
(@)楕円(
ε < 1)
楕円は『 楕円は 切断面上の二つの焦点からの距離の和が一定となる曲線である 』と定義されています。この定義に従って楕円の軌道を求め、それを「楕円の標準形」で表した式は
x'2/a2 + y'2/b2 = 1 (楕円の標準形)
となります。ここに
a は「楕円の長半径」、
b は「楕円の短半径」と呼ばれます。
a と
b は長さの次元を持つ正の量で、
b は
a と 離心率
ε を用いて
b2 =
a2 (1−
ε2)
(楕円の短半径)
と表されます。
ε < 1 なので、
a は
b より大きくなります (
《 楕円、双曲線、放物線の標準形 》 を参照)。
〔 図 3-6a 〕に、楕円の軌道 (
茶色の太線で示す) を 直交座標系 ( Q
x'y' ) と 直交座標系 ( O
xy ) とともに示します。
〇 直交座標系 ( Qx'y' ) の 原点Q は黒色の二重丸で示し、座標軸は緑色で示してあります。直交座標系 ( Oxy ) の 原点O は 黒色の丸で示し、座標軸は黒色で示してあります。二つの直交座標系の座標成分のあいだには
x'=x+aε,
y'=y
の関係があります。
〇 原点O は楕円の一つの「焦点」で、Q からの距離は aε です。それと同じ距離で x'軸 の負の側に O'点 をとり、これがもう一つの焦点になります。
〇 x'軸上 で曲線の右端と左端にある A点とB点は、{{線分QAの長さ}={線分QBの長さ}= a となる位置にあります。
曲線に沿って P点 は次のように移動します。
◇ P点 は x'軸 の右端の A点 から出発し、y軸上 の E点 を経て y'軸 と C点 で交わり、それから x'軸 の左端の B点 に到達します。その後 P は y'軸 の負の側を B点、C'点、E'点 を通り、最後に A点 に戻ります。
楕円の軌道は、
x'軸 について線対称であるとともに、
y'軸についても線対称になっています。
楕円の形状は、
ε の大きさとともに次のように変化します:
◇ ε が小さくなるほど、焦点O と 焦点O’は近づき、b と a の比は大きくなります。特に ε = 0 のとき、O と O’ は一致して b/a = 1 となり、楕円は 円 ≠ノなります。
◇ ε が大きくなるほど、焦点O と 焦点O’は離れてゆき、b と a の比は小さくなって楕円は細長い ひしゃげた形 ≠ノなってゆきます。
(A)双曲線(
ε > 1)
双曲線は『 双曲線は 切断面上の二つの焦点からの距離の差が一定となる曲線である 』と定義されています。この定義に従って双曲線の軌道を求め、それを「双曲線の標準形」で表した式は
x'2/a2 − y'2/b2 = 1 (双曲線の標準形)
となります。ここに
a と
b は長さの次元を持つ正の量で、
b は
a と 離心率
εを用いて
'
b2=
a2(
ε2−1)
と表されます (
《 楕円、双曲線、放物線の標準形 》 を参照)。
〔 図 3-6b 〕 に、双曲線の軌道 (
茶色の太線) と 漸近線(
黒色の線) を、 直交座標系 ( Q
x'y' ) と 直交座標系 ( O
xy ) とともに示します。
〇 直交座標系 ( Qx'y' ) の 原点Q を黒色の二重丸で示し、座標軸は緑色で示してあります。直交座標系 ( Oxy ) では、原点O を黒色の丸で示し、座標軸は黒色で示してあります。二つの直交座標系の座標成分のあいだには
x'=x−aε,
y'=y
の関係があります。
〇 原点O は双曲線の一つの「焦点」で、Q からの距離は aε です。それと同じ距離で x'軸 の負の側に O'点 をとり、これがもう一つの焦点になります。
曲線に沿って P点 は次のように移動します。
◇ P点 は x'軸 の右端の A点 から出発し、y軸上 の E点 を通り、x'軸 の負の領域に入ると|x'|が大きくなるにつれて|y'|が単調に増加します。そのとき (双曲線の標準形) の右辺の 1 は ゼロ とみなすことができ、|x'|と|y'|は漸近線に近づきます。
◇ 漸近線の座標成分を x'漸近 と y'漸近 と記すことにすれば、これらは
{x'漸近}2/a2 − {(i>y'漸近}2/b2 = 0
を満足します。上式から、漸近線は次の二つ;
y'漸近=(b/a)x'漸近 および y'漸近=−(b/a)x'漸近 (漸近線の式)
になります。
双曲線の軌道は、
x'軸 について線対称であるとともに、
y'軸についても線対称になっています。
双曲線の形状は、
ε の大きさとともに次のように変化します:
◇ ε が 1 に近づくほど、焦点O と 焦点O’ は近づいてゆき、また b と a の比は小さくなって漸近線の傾きは小さくなります。
◇ ε が大きくなるほど、焦点O と 焦点O’ は離れてゆき、また b と a の比は大きくなって漸近線の傾きは大きくなります。
(B)放物線(ε = 1)
円錐曲線の式で ε = 1 と置くと
r =
s/(1+cos
θ )
となります。両辺に (1+cos
θ) を乗じ、(直交座標系と極座標系の位置座標) に示した 一番目の変換式;
x=
rcos
φ;を代入すると
r+
x=
s
となります。左辺の
x を右辺に移項し、両辺を2乗すると
r2=(
s−
x)
2
となります。(直交座標系と極座標系の位置座標) から
r2=
x2+
y2 となるので、これを左辺に代入して 式を整理すると
y2 = −2sx + s2 (放物線の軌道の式)
が得られます。これは 座標系 ( O
xy ) の座標成分を用いて表した 放物線の軌道 です。
〔 図 3-6c 〕 に、放物線の軌道(
茶色の太線)を示します。軌道上の P点 は
x軸 と A点で交わり、
y軸 と E点 と E'点 で交わります。{線分OEの長さ}={線分OE'の長さ}=
s で、{線分EE'の長さ}=
s/2 です。
曲線に沿って P点 は次のように移動します。
◇ x'軸 の正の領域では、P点 は x軸 の右端の A点 から出発し、y軸上 の E点 を通り、x軸 の負の領域に入ると|x|が大きくなるにつれて|y|は単調に増加します。
◇ x'軸 の負の領域では、P点 は x'軸 の右端の A点 から出発し、y軸上 の E'点 を通り、x'軸 の負の領域に入ると|x'|が大きくなるにつれて|y'|は単調に増加します。
放物線の軌道は
x軸 について線対称になっています。
運動の例(1)−地球を出発したロケットの運動−
一番目の例は、地球の表面付近を出発したロケットが地球を周回する運動を扱います。地球からの重力を受けるロケットの運動に 上記の
( 位置の時間的な変化を求める式 ) を適用し、ロケットの位置の時間的な変化を計算します。ここでは、ロケットが地球の大気から受ける接触力については考慮しないことにします。
地球は半径
RE で質量
ME の静止した球であり、質量が中心 O の回りに球対称に分布するというモデルを採用します。このとき〔 図 3-4 〕に示すように、O に静止した質量
ME の質点があり、質量
m の ロケットの P が 原点O の周りを楕円軌道に沿って回るという描像を描くことができます。
ロケットは 初期時刻
t =0 で楕円軌道を示した〔 図 3-6a 〕の A を出発し、周期
T の時間を要して楕円に沿って A→C→B→C’→A の順に進みます。初期位置 A は O から
r0 だけ離れた位置にあるとします。初期速度は A における楕円軌道の接線方向を向きますが、その速度の大きさを
v0 とします。
離心率が
ε =0 のとき軌道は円になります。このとき
( 動径 r と 角 θ の時間的な変化を求める式 ) から
r =
a および
θ = 2π
t/
T が得られ、ロケットは等速円運動を行うことが確かめられます。特に
r が地球の半径に等しい (
r = RE ) ときのロケットの速度を
V0 とすれば
V0 = (
GME/
RE )
1/2 = 7.912 × 10
3 [m/s]
( 第1の宇宙速度 )
となり、これは「第1の宇宙速度」と呼ばれています。
◇ G = 6.674 × 10-11 [Nm2/kg2] 、ME = 5.972 × 1024 [kg]、RE = 6.367 × 106 [m] を用いました。RE は、地球の赤道半径と極半径の平均値です( 《 参考資料 3-3 》 )。
◇ 第1の宇宙速度 V0 は、ロケットが地球表面( 海抜ゼロの高さ )に沿って飛行する速さであり、その周期は 5.057× 10 3 [s] です。
分かり易くするために、ロケットの初期位置
r0 は 地球半径
RE の
fR 倍 (
r0 = fR RE ) で、初期速度
v0 は 第1の宇宙速度
V0 の
fV 倍 (
v0 = fV V0 ) であるとします。初期条件をこのように指定すると、ロケットの軌道の離心率
ε は
ε =
fRfV 2 − 1
( ロケットの軌道の離心率と初期条件 )
と表されます (
この式を導く方法は、《 ロケットの軌道の離心率と初期条件 》 を参照 )。同様にして、楕円の半直弦
s と 長半径
a についても
fR と
fV で表すことができ
s =
fR 2fV 2,
a =
fR/(2−
fRf
V 2)
( ロケットの軌道の半直弦、長半径と初期条件 )
となります。ロケットが軌道を一周するのに要する時間;周期
T;は
( ケプラーの第3法則 ) で与えられましたが、これを
fR と
fV を用いて表すと
T = 5.057×10
3 {
fR/(2−
fRfV 2 ) }
3/2 ( ロケットの周期と初期条件 )
となります。
種々の初期条件について、
( 位置の時間的な変化を求める式 ) を用いてロケットの位置の時間変化を数値計算で求めました。
◇ 計算では、軌道上の座標成分 x と y を地球の半径 RE で割った量;x/RE および x/RE;で表示し、時刻 t を 周期 T で割った量;t/T;の無次元の量で表示します。これらの無次元量は、それぞれ x、 y、 tの文字に ^( ハット ) の記号を冠して表わすことにします。
fR と
fV について、次の5通りの初期条件をとり上げました:
イ)fR = 1.0、fV = 1.0、 ロ)fR = 1.0、fV = 1.096、
ハ)fR = 1.3、fV = 0.8754、 ニ)fR = 1.3、fV = 1.0、
ホ)fR = 1.3、fV = 1.038
これらの初期条件のとき、ロケットの軌道の 離心率、無次元量で表した半直弦と長半径、および [s] の単位で表した周期は、
〔 表 3-1 〕 に示すようになります:
それぞれの初期条件について、ロケットが初めの時刻
t = 0 [s] で出発してから1周期までの間に各時刻で辿る位置を、上述した
( 位置の時間的な変化を求める式 ) を用いて計算しました。その結果を
〔 図 3-8 〕 に示します。
〔 図 3-8 〕に示した時刻
t は次のようです:
初期時刻、(1/16) 周期、 (2/16) 周期、 (3/16) 周期、 (4/16) 周期 (=1/4周期)、
(5/16) 周期、 (6/16) 周期、 (7/16) 周期、 (8/16) (=1/2周期)、
(9/16) 周期、 (10/16) 周期、 (11/16) 周期、 (12/16)(=3/4周期)、
(13/16) 周期、 (14/16) 周期、 (15/16) 周期、 (16/16) (=1周期)
◇ 初期条件 イ)は、ロケットを地球の表面(
r0 = RE )の位置から第1宇宙速度(
v0 = V0 )で出発させた場合であり、ロケットは地球の表面に沿って円軌道(
黒色の線で示す )を描いて飛行します。
◇ 初期条件 ロ)は、ロケットを イ)と同じ位置から速さが第1宇宙速度の 1.096倍 で出発させた場合です。このとき、軌道(
赤色の線で示す )は 離心率
ε = 0.2 の楕円となります。出発してから半周期後に、ロケットは 地球の中心 O から 1.5
RE だけ離れた位置に来ます。
◇ 初期条件 ハ)は、ロケットを高度 (
地球表面からの高さ ) が 1900km の位置から速さが第1宇宙速度の 0.8754倍 で出発させた場合です。このとき、軌道(
紫色の線で示す )は 円 (
ε= 0 ) になります。
◇ 初期条件 ニ)は、ロケットを ハ)と同じ位置から速さが第1宇宙速度で出発させた場合です。このとき、軌道(
緑色の線で示す )は 離心率
ε = 0.3 の楕円となります。出発してから半周期後に、ロケットは 地球の中心 O から 2.414
RE だけ離れた位置に来ます。
◇ 初期条件 ホ)は、ロケットを ハ)と同じ位置から速さが第1宇宙速度の 1.038倍 で出発させた場合です。このとき、軌道(
青色の線で示す )は 離心率
ε = 0.4 の楕円となります。出発してから半周期後に、ロケットは 地球の中心 O から 3.038
RE だけ離れた位置に来ます。
運動の例(2)−太陽系の惑星の運動−
二番目の例は、太陽の廻りを回る「太陽系の惑星」の運動を扱います。
水星、金星、火星などの天体は天空を移動する星として観察され、太古からその存在が知られておりました。16世紀から17世紀にかけて地動説が唱えられ、これらの天体は太陽の廻りを回る惑星であると考えられるようになりました。その当時に知られていた太陽系の惑星は 水星、金星、地球、火星、木星、土星 の6個でしたが、その後に天王星、海王星の2個の惑星が発見されました。
◇ 現在まで太陽の廻りを回る天体は、8個の惑星の他に、5個の準惑星と多くの天体が見出されています( 《 参考資料 3-4 》 )。
万有引力の法則が発見される以前に、ケプラー(
Johannes.Kepler;1571 年-1630年 )は、天体の運動に関する精密な観測データに基づいて
ケプラーの法則 (
Kepler's laws) を見出しました。この法則は、次の三つから成ります:
・ ケプラーの第1法則:惑星は太陽を焦点の一つとする楕円軌道を描く。
・ ケプラーの第2法則:太陽と惑星を結ぶ動径が単位時間に空間で作る面積(面積速度)は一定である。
・ ケプラーの第3法則:惑星が太陽のまわりを回る周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例する。
万有引力を受けて運動する物体の軌道は、円錐曲線で表されることを述べました。ケプラーは、惑星の観測データの解析を通して 円錐曲線の一つである楕円軌道を見出し、これを第1法則としたのです。
第2法則は、物体の角運動量保存則 から帰結されます。質量
m の 物体の角運動量の大きさは
mh ですが、
h は動径が空間で描く面積速度 の大きさの2倍に等しく、これが不変な量に保たれるからです。
第3法則は、太陽系のすべての惑星に共通して成立します。この法則は、次のようにして確かめられます:
◇ 動径
r が楕円を一周りする時間、すなわち周期
T の間に
r が空間で作り出す面積は、楕円の面積 π
ab です。一方、動径の面積速度は
h/2 に等しいので、(
h/2)
T = π
ab が成立し、これから
T = 2π
ab/
h ( 楕円の面積、周期、面積速度 )
となります。
◇ 楕円の長半径は
a=
s/(1−
ε 2 ) で 短半径は
b=
s/(1−
ε 2 )
1/2 と表されます (
《 楕円、双曲線、放物線の標準形 》 を参照)。これから
b =
s1/2 a1/2
となります。これを 上記の( 楕円の面積、周期、面積速度 ) に代入すると
T = 2π
s 1/2 a3/2/
h
となり、両辺を2乗すると
T 2 = 4π
2a 3/(
GM )
( ケプラーの第3法則 )
が得られます。こうして、ケプラーの第3法則が成立することが示されます。
〔 表 3-2 〕 に、現在の観測資料に基づく惑星の太陽を回る軌道の 離心率、軌道の長半径、軌道傾斜角、公転周期、および、質量 について示します。
◇〔 表 3-2 〕において、軌道傾斜角は惑星の軌道面と「基準面」のなす角のことです。ここに基準面とは、太陽の自転軸と垂直な面、すなわち太陽の赤道面です。
◇ 軌道長半径は、「天文単位」の au で表しました。ここに au = 1.49597870700×10 11 [m] です。1天文単位は、地球と太陽との平均距離を表します。
◇ 〔 表 3-2 〕の離心率、軌道長半径、軌道傾斜角の数値は、《 参考資料 3-4 》 に記載された数値の有効数字4桁(けた)をとって示しました。
軌道面の基準面からの傾き(
軌道傾斜角 )はどの惑星とも小さくて(
最大なのは水星の 約 7° ) 、惑星は全体として基準面とほぼ同じ軌道上を廻っていることが分かります。太陽を回る軌道の離心率は水星(
その離心率は 約 0.2 ) を除いてかなり小さく、軌道の形はかなり円に近い楕円になっています。
軌道長半径 と 公転周期(
惑星が太陽に廻りを1周するのに要する時間 )は、水星、金星、…、天王星、海王星 の順に大きくなります。
各々の惑星は、太陽と他の(
7個の )惑星から重力を受けます。しかし太陽の質量(
1.989×10 30 [kg] )は惑星の質量に比べて非常に大きいので、一つ一つの惑星はほとんど太陽からの重力だけを受けていると見なされます。すなわち、個々の惑星の運動を 太陽と一つの惑星から成る系≠ニして近似的に扱うことができます。こうして水星から海王星までの8個の惑星は、各々がそれぞれの 離心率、半直弦、軌道長半径 を有する楕円軌道
r =
s/{ 1 +
ε cos
θ } の上を進む運動として表すことができます。
このような (
他の惑星の存在を無視して ) 個々の惑星が独立に運動するというモデルでは、ケプラーの第3法則≠フ
T 2/
a 3 = 一定 = 4π
2/
GM (
太陽系惑星に関するケプラーの第3法則 )
が正確に成り立ちます。
この法則の精度を確かめるために、上式の左辺の
T と
a に〔 表 3-2 〕の観測値を代入し、その値と 右辺の 4π
2/
GM の比が惑星の種類に関係せず 1 に等しくなるかどうかを調べます。その結果は 1 に極めて近い値で 次のようになります;
・水星;1+0.00131、・金星;1-0.00620、・地球;1-0.00000、・火星;1+0.00016、
・木星;1-0.00130、・土星;1+0.00063、・天王星;1-0.00116、・海王星; 1-0.00123
このように第3法則は非常に良い精度で成り立つので、個々の惑星が太陽の廻りを独立に廻ると考えるモデルは有効であることが分かります。
〇 それでは、8個の太陽系惑星がどのような理由で〔 表 3-2 〕に記された 離心率、軌道長半径、軌道傾斜角、公転周期 で太陽の廻りを回る運動をするようになったのか、という問いにはどう答えれば良いでしょうか? 8個の惑星に適当な初期位置と初期速度を与えれば、太陽・惑星系の運動は( 過去から未来にわたって )永い時間にわたって維持されることが予想されます。しかしながら、8個の惑星について何故そのような初期条件を与えるのか、という理由は説明することができません。それを説明するには、太陽系が生成した初期の宇宙モデルについて考察する必要があるでしょう。
運動の例(3)−地球表面付近の物体の運動−
三番目の例は、地球表面付近に存在する物体の運動を扱います。物体が地球表面 (
以下、地表面≠ニもいう ) の付近を運動するときには、物体は地球から 重力、地表面の上方では 大気から接触力、地表面に接触したときには 地表面から接触力を受けます。
地球は、空間の 点 O の周りに質量が球対称に分布する 半径
RE の静止した球であるとします。
〔 図 3-9a 〕 のように O を中心とする半径
RE の球を描くと、この球の表面が地球表面を表します。
◇ O を原点とする直交座標系( OXYZ )を設定します。Z軸 が球面と交わる点 を A と B とすれば、A は「北極点」、B は「南極点」になり、X−Y平面 が球面と交わる線は「赤道」になります。Y軸 が赤道と交わる点を C および D とします。
◇ A と B を通る大円は「子午線( しごせん )と呼ばれます。「本初 ( ほんしょ ) 子午線」と呼ばる基準の子午線を定め、それが赤道を交わる 点E が X軸 の上にあるようにします。
〔 図 3-9a 〕において地球球面上にある任意の点を Q とし、原点 O から Q に向かう位置ベクトルを
rQ とします。Q の位置は、次のような「緯度」と「経度」と呼ばれる二つの角で表示されます。
◇ Q の緯度は、原点 O と Q を結ぶ 線分OQ が 赤道面となす 角 θ Q で表される。
◇ Q の経度は、Q を通る子午線が赤道と交わる点を F とすれば、X軸 と 線分OF のなす角 φ Q で表される。
続いて〔 図 3-9a 〕において、地球表面の 点Q を原点とするもう一つの直交座標系(Q
xyz)を次のように設定します。
◇ z軸 を、地球の中心O から Q に向かう方向にとる。
◇ 原点Q を通り z軸 に垂直な平面の上に、x軸 と それに直交する y軸 をとる。ただし x軸 の向きは、Q を通る子午線の接線方向に選ぶ。
このように定められた直交座標系(Q
xyz)では、
xー
y 平面 は(
緯度 θ Q と経度 φ Q で表示される)地球表面の 地点Q における水平な地表面を表し、
z軸 の向きは(
水平面に垂直な )鉛直上方になります。
〔 図 3-9b 〕 に、直交座標系(Q
xyz)の空間における質量
m の 物体P および それに作用する重力と接触力を示します。〔 図 〕には、物体P の質量中心P の位置を位置ベクトルの
r(
茶色の矢印 )で、地球から及ぼされる重力を
F (remt)(
赤色の矢印 )で、空気や地面から及ぼされる 接触力を
F (cont)(
赤色の矢印 )で示します。
物体の運動する領域を地球表面のごく狭い範囲に限ることにすれば、重力は近似的に
F (remt) ≒ −
mgk
と表されます。ここに
k は
z軸 方向の基本ベクトルであり、
g ≡
GME/
RE 2 ( 重力加速度 )
は地球の表面において(
物体の単位質量当たりに作用する )地球の重力の大きさで、「重力加速度」の大きさと呼ばれる量です。
G、
ME、
RE に数値を代入すると、
g = 9.83 [m/s
2]
となります。
◇ 地球から物体Pに及ぼされる重力 F (remt) は、正確には地球の中心Oから質量 m の 質点P に作用する力です。しかし P の運動する範囲を地球表面付近のごく狭い範囲に限れば、これを十分に良い精度で −mgk と近似できます。
◇ 例えば、P の運動する範囲を水平方向に 10 [km] × 10 [km] の広さまで、地表面から鉛直方向に 10 [km] の高さまで限定したとき、F (remt) と −mgk の大きさと方向に関する相対誤差は、およそ 3/1000 です。
物体P の運動方程式として、
の〈式 2-5〉を用います。この方程式を直交座標系(Q
xyz)の座標成分で表せば
m(
dvx/
dt)= {
F (cont) }
x,
m(
dvy/
dt)= {
F (cont) }
y,
m(
dvz/
dt)= −
mg + {
F (cont) }
z
(物体P の運動方程式)
となります。ここに、{
F (cont) }
x、{
F (cont) }
y、{
F (cont) }
z は、物体P に作用する接触力の
x、
y、
z 成分です。
地球の表面付近では大気の密度が大きいので、物体は空気から大きな接触力を受けます。さらに物体が地表面に接触するときには、地表面から大きな接触力を受けます。したがって
(物体P の運動方程式)において、通常は接触力
F (cont) は無視できません。
空気や地面から受ける接触力については、後の章で詳しく述べることにします。ここでは、こうした接触力が全く作用せず重力の作用だけを受ける特別な場合について物体の運動を調べます。このときは、上記の
(物体P の運動方程式)は
m(
dvx/
dt)= 0,
m(
dvy/
dt)= 0,
m(
dvz/
dt)= −
mg (地球の重力だけを受けた場合の物体P の運動方程式)
となります。
この運動方程式を解き、時刻
t = 0 における物体Pの初期位置
r0 と初期速度
v0 を指定してやれば、その後の時刻
t における物体の位置と速度は一通りに定まります。その結果、物体Pの速度は
vx =
vx0,
vy =
vy0,
vz =
gt +
vz0 (物体P の速度)
となり、物体Pの位置は
x =
vx0 t +
x0,
y =
vy0 t +
y0,
z = (1/2)
g t 2 +
vz0 t +
z0 (物体P の位置)
となります。ここに
vx0、
vy0、
vz0 および
x0、
y0、
z0 は、それぞれ、初期速度
v0 と 初期位置
r0 の
x、
y、
z 成分です。
これらの解から、次のことが分かります;
(@)物体Pの運動は、その質量 m に無関係である。
(A)初期速度 vx0 ベクトル と 重力加速度ベクトル g の始点を揃え( そろえ )て平面を作ったとき、物体Pはどんな時刻においてもその平面の中で運動する。
ここで分かり易くするために、時刻
t = 0 [s] で物体Pは
z軸上の
H(>0)の位置から大きさ
V0 の速度で 仰角(
ぎょうかく )
β の方向に投げ出されたとします。この初期条件は
x0 = 0,
y0 = 0,
z0 =
H、
vx0 =
V0 cos
β,
vy0 = 0,
vz0 =
V0 sin
β (物体P の初期条件)
となります。その後の時刻において、物体Pは
x−
z平面 の中で運動します。
〔 図 3-10 〕 に、
V0 = 15 [ m/s ] とし、仰角として次の4通り;
β = 0 deg, 45 deg, 60 deg, 90 deg
に選んだとき、初期時刻
t = 0 [ s ] で位置(
黒マル )を出発した物体Pのその後の時刻における位置を、それぞれ、〇印 の中が 青色、緑色、赤色、+印 となっている記号で示します。なお、各々の記号に付してある 時刻
t の数値は、初期時刻
t =0 [s] から経過した時間(
単位は [s] )を表しています。位置が時間変化する有様を仰角ごとに少し詳しく見ると、次のようになります:
◇ 仰角 β = 0 deg( 青色の 〇 )で水平方向に投げ出された物体は、時間とともに高さが減少してゆき、時刻 t = 4.51 [s] で地面上の x = 67.66 [m] の位置に到着します。
◇ 仰角 β = 45 deg( 緑色の 〇 )で投げ出された物体は、時刻 t = 1.08 [s] で高さが最高となる位置 x = 11.44 [m]、z = 105.72 [m] に達し、その後は下方に向かって進み、時刻 t = 5.72 [s] で地面上の x = 60.64 [m] の位置に到着します。
◇ 仰角 β = 60 deg( 赤色の 〇 )で投げ出された物体は、時刻 t = 1.32 [s] で高さが最高となる位置 x = 9.91 [m]、z = 108.58 [m] に達し、その後は下方に向かって進み、時刻 t = 6.02 [s] で地面上の x = 45.16 [m] の位置に到着します。
◇ 仰角 β = 90 deg( +印 の 〇 )で鉛直上方に投げ出された物体は、z軸 に沿って進み、時刻 t = 1.53 [s] で高さが最高となる位置 z = 111.44 [m] に達し、その後は下方に向かって進み、時刻 t = 6.29 [s] で地面に到着します。
仰角
β ごとに各時刻における位置を線で結ぶと、物体Pの軌道が得られます。
(物体P の位置) の1番目の式と3番目の式から
t を消去すると
z = −(1/2)
g {
x/(
V0 cos
β ) }
2 + ( tan
β )
x +
H
(物体P の軌道; β ≠ 90 deg )
となります。ここで
(物体P の初期条件 を用いました。これは
x−
z 平面における放物線≠表しています。一つの地点から投げ出された物体が重力だけの作用を受けるとき、その軌道が放物線を描くことは、教科書などにとり上げられ良く知られています。
◇ 《 参考資料 3-3 》
中村 滋 著、≪ かんどころ7 円錐曲線−歴史とその数理− ≫ 、共立出版、p1-p145, 2011年.
◇ 《 参考資料 3-4 》
≪ 理科年表 ≫ 平成28年度、p73-p74, 東京天文台編, 2016.
《 改定 第3章 ―第2ステップ― 》では、質量中心の運動を解析する具体的な例として、質量が中心のまわりに球対称に分布する仮定した天体から重力の作用を受ける物体の質量中心の運動をとり上げました。一番目の例は地球を出発したロケットの運動=A二番目の例は太陽系の惑星の運動=A三番目の例は地球表面付近の物体の運動≠ナす。これらの例では、簡単のため物体には重力だけが作用し、接触力が作用しない場合を考察しました。そのとき物体の質量中心の運動は、一つの平面の中で行われ、その軌道は 楕円、双曲線、放物線のどれかになることが示されます。
一番目の例では、地球を出発したロケットが地球の周りを楕円軌道を描いて回るとき、その位置の時間的な変化をケプラーの方程式を用いて算出し、初期条件による違いについて調べました。
二番目の例では、8個の惑星のそれぞれは太陽だけから重力を及ぼされ、他の惑星から受ける重力は小さいとして無視するモデルを用いました。このとき各々の惑星は太陽の周りを楕円軌道を描いて運動しますが、各々の惑星について計算したケプラーの第三法則で予測される値がほぼ一致し、このようなモデルが良い近似で成り立つことが確かめられました。
三番目の例でとり上げた地球の表面付近の物体の運動では、物体は一般には大気と地表面からかなり大きな接触力を受けます。このような接触力が存在しないという特別の場合には、運動は非常に簡単に表され、物体は一つの平面に沿って放物線を描いて運動することが示されます。接触力が存在する場合の物体の運動については、後の章で詳しく述べことにします。
≪ 改定 第3章 終了 ≫
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