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《 改定 第4章 ―第2ステップ― 》
 第2ステップ では、空間にある任意の物体のなかの一つの物質粒子に着目し、その 位置、速度、加速度 を 座標系 A で表した場合と 座標系B で表した場合とを結びつける 相対運動の式 を導きます。相対運動の式は、ベクトル または 座標成分 を用いて表されます。
二つの座標系 −座標系A と 座標系B− および 物体と物質粒子の配置
 相対運動の問題では、空間に基準となる物体を二つ選び出し、それぞれの物体に固定して座標系;
   座標系A;( Oyz ) および 座標系B;( Oyz )
を設定します。座標系Aの 原点O にいる 観察者Aが眺めている空間 のことを{ 座標系Aの空間 }といい、座標系Bの 原点O にいる 観察者Bが眺めている空間 のことを { 座標系Bの空間 } といいます。

No4; 座標系Aの空間における座標系Aと座標系Bおよび物体と物質粒子;[ 図 4-4 ]  時刻 において、{ 座標系Aの空間 } における 一つの物体と物体のなかの一つの物質粒子P、および、座標系Aと座標系B の空間的な配置状態は、[ 図 4-4 ] のようであったとします。ここに
◇ ; 座標系Aの 原点O 始点とし 座標系Bの 原点O を終点とする位置ベクトル。
◇ ; 座標系Aの 軸、 y軸、 z軸 に沿う 基本ベクトル。
◇ ; 座標系Bの 軸、 y軸、 z に沿う 基本ベクトル。
◇ ; 座標系Aの原点O を始点とし、物質粒子Pを終点とする位置ベクトル。
◇ ; 座標系Bの原点O を始点とし、物質粒子Pを終点とする位置ベクトル。
です。
 これらのベクトルは、座標成分と基本ベクトルを用いて次のように表されます:

 物質粒子の位置ベクトル および は、それぞれ、座標系Aの座標成分(,,)および 座標系Bの座標成分(,, )を用いて
  
  
と表されます。
 { 座標系Aの空間 } において 物質粒子の位置ベクトルの座標成分を 時間 で微分すると、その空間における 物質粒子の速度の座標成分( ,, )になり、さらにもう一階だけ微分すると、その空間における 物質粒子の加速度の座標成分( ,, )になります。すなわち
,  , ,
,  , 
 これと同様な関係が { 座標系Bの空間 } において成立します。すなわち、その空間における物質粒子の速度と加速度の座標成分を( ,, )および( ,, )とすれば
,  ,  ,
,  , 
となります。

 原点Oの位置ベクトル は、座標系Aの座標成分(,,)を用いて
  
と表されます。
 { 座標系Aの空間 } において 原点Oの位置ベクトル の座標成分を 時間 で微分すると、その空間における 原点Oの速度の座標成分( ,, )になり、さらにもう一階だけ微分すると、その空間における 原点Oの加速度の座標成分( ,, )になります。すなわち
,  ,  ,
,  ,  
となります。
ベクトルで表した相対運動の式
 上記の [ 図 4-4 ] には、座標系A と 座標系B の二つの座標系が示されています。ここで
『 座標系Aは静止した状態にある 』
とします。座標系は物体に固定して設置されるので、これは『 物体A が静止した状態にある 』ということを意味します。座標系Aの原点は静止し、座標軸の向きは時間が経過しても変化しません。そのような例を、前ページの [ 図 4-3 ] の (左図) に示しました( 《 改定 第4章 −第1ステップ− 》)。
 これに対して、もう一方の座標系Bは一般には空間で運動している状態になります。そのような例を、前ページの [ 図 4-3 ] の (右図) に示しました( 《 改定 第4章 −第1ステップ− 》)。電車の車体に固定された座標系Bは、観察者Aが眺めると、レールに沿って移動して行きます。一般的にいえば、座標系Bの原点 O は空間を移動し、その座標軸は原点 O のまわりに回転します。こうして
『 座標系Aは静止し、座標系Bは空間で運動している状態にある 』
となります。この運動状態は、座標系Aの 原点O にいる 観察者A が眺めた { 座標系Aの空間 } における運動状態です。
〇 これとは逆に、『 座標系Bは静止し、座標系Aは空間で運動している状態にある 』とすることもできます。その場合には、記号の A と B とを入れ替えたものになります。
 どちらの場合でも同じように話を進められますが、以後は『 座標系Aは静止した状態にある 』という場合を採用することにします。
 上記の〔 図 4-4 〕に示した座標系Aの原点の位置と座標軸の向きは、時間が経過しても変化せず、同じ位置と同じ向きを保ちます。他方の座標系Bの原点の位置と座標軸の向きは、一般には時間の経過とともにその位置と向きを次のように変化させます。
◇ 原点Oの位置ベクトル の単位時間当たりの変化は 原点Oの速度ベクトル になり、単位時間あたりの の変化は 原点Oの加速度 になります:
   ,       ( 座標系Bの原点Oの速度と加速度 )
◇ 座標系Bの座標軸の向き の単位時間当たりの変化は、原点Oの周りの座標系Bの座標軸の回転運動 として表され、次のようになります:
   Ω×, Ω×, Ω×
                       ( 座標系Bの基本ベクトルの時間的な変化 )
ここに Ω は、原点Oの周りの座標系Bの回転の角速度 です。この式の右辺は、角速度 Ω と 座標系Bの基本ベクトル の外積 ( 《 ベクトルの外積 》 を参照 ) で表されています。上記の式を導く方法を、( 《 基本ベクトルの時間的な変化 》 ) に示します。
 角速度 Ω の単位時間あたりの変化は、角加速度 Σ になります。すなわち
   ΣΩ       ( 座標系Bの原点Oの周りの座標系Bの回転の角加速度 )
です。{ 座標系Aの空間 } における Ω の座標成分を(Ω,Ω,Ω)とし、Σ の座標成分を(Σ, Σ, Σ)とすると
   ΩΩΩΩ,  ΣΣΣΣ
と表されます。角速度と角加速度の座標成分のあいだには
   ΣΩ,  ΣΩ,  ΣΩ
の関係があります。

 上記の〔 図 4-4 〕において、3個の位置ベクトル は三角形を形成しており、加法・減法の規則から
      ( 位置ベクトル の関係 )
となります。この式を 時間 について1階および2階の微分を行うと、物質粒子の速度と加速度に関する関係式が得られます。これを導く方法を 《 ベクトルで表した相対運動の式 》 で説明します。

 以上の手順で得られるベクトルで表した 位置の に関する関係式、速度の に関する関係式、加速度の に関する関係式を総称して、「ベクトルで表した相対運動の式」と呼ぶことにします。まとめて改めて示せば

(@)ベクトルで表した相対運動の位置に関する関係式:
                          〈 式 4-1a 〉
(A)ベクトルで表した相対運動の速度に関する関係式:
  Ω×                  〈 式 4-2a 〉
(B)ベクトルで表した相対運動の加速度に関する関係式:
  Σ×Ω×(Ω× ) + 2Ω×  〈 式 4-3a 〉
となります。
〇 < 式 4-1a >、< 式 4-2a >、< 式 4-3a > は相対運動において重要な式であり、これ以後も何度も用いられることを考慮して、式に番号を付けました。

 座標系Bの原点O が直線に沿った直線軌道を描く場合には、O の速度 と 加速度 はその直線に沿った方向を向きます。しかし O が曲線に沿った曲線軌道を描く場合には、速度 は曲線の接線方向を向き、加速度 は 曲線の接線方向を向く加速度 と 接線方向に直角方向を向く加速度 の和となります。すなわち
        ( 接線方向の加速度と接線方向に直角方向の加速度の和;曲線軌道の場合
となります。

 ベクトルで表した相対運動の位置、速度、加速度に関する < 式 4-1a >、< 式 4-2a >、< 式 4-3a > の (左辺の項) と (右辺の最後の項) のあいだには、それぞれ、次のような項が現れます:
(*)位置に関する関係式; 位置
(*)速度に関する関係式;Ω× 速度
(*) 加速度に関する関係式;Σ×Ω×(Ω×)+2Ω× 加速度
〇 加速度に関する関係式の 左辺第3項 Ω×(Ω×) と 第4項 2Ω× には、「向心加速度」および「コリオリの加速度」という名称が与えられています。
座標成分で表した相対運動の式
 ベクトルで表した相対運動の式〈 式 4-1a 〉、< 式 4-1b 〉、< 式 4-1c 〉から、座標系Aの座標成分と座標系Bの座標成分を直接に結びつける相対運動の式を導き出すことができます。これを「座標成分で表した相対運動の式」と呼びます。

 座標系Aの座標軸の向きは基本ベクトルの で示され、座標系Bの座標軸の向きは基本ベクトルの で示されます。二つの座標系のあいだの傾き具合は、3個の基本ベクトルと3個の基本ベクトルから作られる9個の内積 ( 《 ベクトルの内積 》 を参照)で指定されます。各々の内積に記号の に数字の添字を付けて 〔 表 4-1 〕
  11,
  12,
  13
  21,
  22,
  23
  31,
  32,
  33
と表します。これらを3行3列の行列≠フ形に並べ、「変換行列」[ ] と その転置行列 [ ]を作ります。これを 〔 表 4-1 〕 に示します。
〇 基本ベクトルの「規格・直交性」( 《 単位ベクトルと基本ベクトル 》 を参照)を考慮すると、変換行列とその転置行列の行列成分の9個の量のうち、独立な量は3個であることが確かめられます。
 ベクトルは、3個の座標成分(成分、成分、成分)を係数とする基本ベクトルの一次式で表されます。3個の座標成分を3行1列の行列≠フ形に表し、相対運動の式に現れるベクトルを行列形式で表した座標成分に置き換えれば、「座標成分で表した相対運動の式」が得られます。
 相対運動の式は、位置に関する関係式、速度に関する関係式、加速度に関する関係式の三つから成り、行列の積および行列の和≠フ演算という形式で表されます(《 行列の演算 》 を参照 )。相対運動の式を導く方法を 《 座標成分で表した相対運動の式 》 で説明します。その結果は、次のようになります:

〔 表 4-2 〕 (@)座標成分で表した相対運動の位置に関する関係式:
〔 表 4-2 〕 の〈 式 4-1b 〉に示すようになります。
◇ 左辺には、座標系Aにおける位置の座標成分が3行1列の行列として表されています。
◇ 右辺は、行列の二つの項の和になっています。第1項では、座標系Aにおける位置ベクトル の座標成分が3行1列の行列として表されています。第2項では、変換行列と座標系Bにおける位置の座標成分の積として表され、演算すれば3行1列の行列になります。
〈 式 4-1b 〉は、二つの座標成分;
   { 座標系Aにおける相対運動の位置の座標成分 }{ 座標系Bにおける相対運動の位置の座標成分 }
のあいだの関係を表すものです。この式の左辺は3行1列の行列であり、右辺は第1項と第2項の和をとれば3行1列の行列になります。両辺を等値して
    の関係、 の関係、 の関係
が得られます。

〔 表 4-3 〕 (A)座標成分で表した相対運動の速度に関する関係式:
〔 表 4-3 〕 の〈 式 4-2b 〉に示すようになります。
◇ 左辺には、座標系Aにおける速度の座標成分が3行1列の行列として表されています。
◇ 右辺の行列の三つの項の和は、3行1列の行列となります。
〈 式 4-2b 〉は、二つの座標成分;
   { 座標系Aにおける物質粒子の速度の座標成分 }{ 座標系Bにおける物質粒子の速度の座標成分 }
のあいだの関係を表すものです。両辺を等値すれば
    の関係、 の関係、 の関係
が得られます。

  <式 4-2b 〉の右辺第2項目にある は、変換行列[ ]と位置の座標成分との一次式で表され
 111213,  212223, 313233
となります (《 座標成分で表した相対運動の式 》を参照):

(B)座標成分で表した相対運動の加速度に関する関係式
 〔 表 4-4 〕 の〈 式 4-3b 〉に示すようになります。
◇ 左辺には、座標系Aにおける加速度の座標成分が3行1列の行列として表されています。
◇ 右辺は、行列の五つの項の和になり、演算すれば3行1列の行列となります。
〈 式 4-3c 〉は、二つの座標成分;
   { 座標系Aにおける物質粒子の加速度の座標成分 }{ 座標系Bにおける物質粒子の加速度の座標成分 }
のあいだの関係を表すものです。両辺を等値すれば
    の関係、 の関係、 の関係
が得られます。

 〈 式 4-3c 〉の右辺第四項目にある は、変換行列[ ]と速度の座標成分との一次式で表され
 111213, 212223,
 313233
となります (《 座標成分で表した相対運動の式 》を参照):
〔 表 4-4 〕

 以上に示した < 式 4-1b >、< 式 4-2b >、< 式 4-3b > (それぞれ、[ 表 4-2 ]、[ 表 4-3 ]、[ 表 4-4 ]) が 、相対運動における座標成分で表した物質粒子の位置、速度、加速度の関係式です。

 座標成分で表した物質粒子の位置、速度、加速度の関係式 < 式 4-1b >、< 式 4-2b >、< 式 4-3b > に現れる量は、(座標系Aの空間) と (座標系Bの空間) における物質粒子の位置、速度、加速度の座標成分、および、(座標系Aの空間) における座標系Bの運動を表す量( 原点 O の速度と加速度の座標成分、O のまわりの座標軸の回転の角速度と角加速度の座標成分 ) です。これらの量は一般には時間 とともに変化します。
 しかしながら 位置、速度、加速度の関係式に現れるこれらの量は、同じ時刻 に揃えた( そろえた )量であることに注意する必要があります。

 《 改定 第4章 ―第3ステップ― 》では、ベクトル または 座標成分で表した相対運動の式 に基づいて相対運動の分類を行うとともに、相対運動に関するいくつかの例を紹介することにします。
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