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《 改定 第4章 ―第1ステップ― 》
 第1ステップでは、相対運動を説明する一つの例として、電車が走行する郊外の風景をとり上げます。この例を用いて、相対運動では「基準となる物体」と「観察者」および「座標系」が重要な役割を果たすことを示します。
 基準となる物体には電車のレール − 道路 − 歩道 および 電車の車体の天井 − 床 − 側面 を選び、それぞれの物体に固定して二つの座標系;座標系A と 座標系B;を設定します。座標系Aの原点付近に 観察者A、座標系Bの原点付近に 観察者B がおり、それぞれが周囲の物体の運動を観察します。
静止している物体 と 動いている物体
 ホームページの《 改定第1章 物体の運動をどのように表すか 》の《 第1ステップ 》において、私たちが観察する物体のさまざまな運動の例をとり上げました( 《 改定 第1章 ―第1ステップ― )。この例から、物体の運動について次のことが導かれます。
 観察される物体の運動の状態は、二つに大別されます。一つは物体が静止した状態≠ノある場合で、もう一つは物体が動いている状態≠ノある場合です。
〇 物体が静止した状態といっても、『 物体のあらゆる部分が静止した状態 』である場合もあれば、『 物体は全体としては静止しているが、物体の各部分が動いている状態 』である場合もあります。そこで《 改定第3章 》で導入した「物体の質量中心」( 《 改定 第3章 ―第1ステップ― ) を用い、物体の二つの運動の状態を単純に次のように分類します。すなわち
    『 物体の質量中心が静止しておれば、物体は静止した状態にある 』
    『 物体の質量中心が動いておれば、物体は動いている状態にある 』
とします。
 相対運動の問題を考えるために、《 改定第1章−第1ステップ− 》とは別の風景として、郊外を走る電車を眺めたときの風景をとり上げてみます。これを〔 図 4-1a 〕に示します。
No1a; 電車が走行する郊外の風景
〇 平野部を一両の電車がレールに沿って走行し、レールと平行に道路を挟んで( はさんで )歩道が延びています。この歩道の上に立ち止まった人が、走行する電車を眺めています。電車を眺めている人の傍には、鉛直に立てられた街灯があり、歩道の上を歩行者が歩いています。道路の上を一台の自動車が電車と同じ方向に走行し、上空には一羽の鳥が飛んでいます。遠方には山の嶺が連なって見えています。
 歩道の上で立ち止まって電車を眺めている ( 黄色の帽子をかぶった )人は、諸物体の運動状態を次のように観察するでしょう。
・ 電車の「レール」、「道路」、「歩道」、「街灯」、遠方に見える「山々」などは、静止した状態≠ナある。
・ 歩道の上を歩く ( 赤紫色の上着を着た ) 人は、動いている状態≠ナある。
・ 「電車」、電車の「運転手」、電車の窓際の席に座って外を眺めている ( 帽子をかぶった )「人」やその他の「乗客」は、電車の車体とほぼ同じ速さで電車の進む方向に動いている状態≠ナある。
・ 「自動車」は電車と同じ方向に動いている状態≠ナある。
 一方、電車に乗っている人は、電車の内部 および 窓を通して電車の外部の景色 を眺めます。この人が見る風景は、〔 図 4-1b 〕 に示すようになります。
〇 電車の車両に固定して備え付けられた床、壁面、窓、ドア、天井、座席などがあり、運転者や乗客は座席に座っていたり、あるいは床の上を歩いたりしています。
 乗客が窓を通して電車の外を眺めると、道路、歩道、街灯、道路を走行する自動車、歩道で立ち止まったり歩いたりしている人を見ます。
 電車の前側の窓際の席に座って外を眺めている ( 緑色でひさしが赤い帽子をかぶった )人は、諸物体の運動状態を次のように観察するでしょう。
No1b; 電車の内部の風景
・ 「床」、「天井」、「壁面」、「窓」、「ドア」、「座席」、「座席に座っている乗客」などは、静止した状態≠ナある。
・ 電車に中で「歩いている乗客」は、動いている状態≠ナある。
・ 窓から外を眺めた風景のうち、電車の「レール」、「道路」、「歩道」、「街灯」、「歩道の上に立った ( 黄色の帽子をかぶった )人」などは、電車の進行方向と反対の向きに動いている状態≠ナある。
 〔 図 4-1a 〕に示された風景は、歩道の街灯の傍で立っている ( 黄色の帽子をかぶった )人 が眺めた風景です。この人のことを 観察者A と呼ぶことにします。また〔 図 4-1b 〕に示された風景は、電車の前方の座席に座っている ( 緑色でひさしが赤い帽子をかぶった )人 が眺めた風景です。この人のことを 観察者B と呼ぶことにします。
 観察者A と 観察者B が眺めている諸々の物体は、観察者の視界が邪魔されない限り、基本的には同じものです。道路、歩道、街灯、自動車、歩道の上を歩く人、鳥、山々、電車の窓やドア、電車内部の床の上を歩く人、電車の運転手など。
 同じ物体であっても、その運動状態が 静止している状態 と観察されたり 動いている状態 と観察されたりします。このことは、私たちが日常においてしばしば経験するところです。
基準となる物体
 同じ物体であっても、観察者A と 観察者B ではその運動状態が 静止している状態 と観察されたり あるいは 動いている状態 と観察されたりするのは何故なのでしょうか?
 それに答えるには、観察者A と 観察者B のそれぞれが どんな物体を基準にして運動状態を観察しているのか? を明らかにする必要があります。

 どんな風景を眺めているときでも、私たちは観察される風景のなかに、何らかの『 静止した状態 』を保っている物体が存在していると考えます。この静止した状態 を保っている物体≠フことを、「基準となる物体」と呼ぶことにします。
〇〔 図 4-1a 〕の風景から 観察者A の周辺の部分を抜き出したものを、〔 図 4-2a 〕 に示します。
No2a; 歩道で電車の走行を観察する人  この図において、電車のレール、道路、歩道 は互いに連結して静止の状態を保っています。そこで
  「電車のレール − 道路 − 歩道」
のひと続きの物体を選び、これらを併せて「基準となる物体 A」と呼ぶことにします。
 観察者A は、基準となる物体に対して静止した状態にあります。ゆえに〔 図 4-1a 〕に示した風景は、この 観察者A が観察した風景と言うことができます。
・ 観察者A は 基準となる物体 A のすぐ近くに立っています。もし観察者A が 基準となる物体 A からもう少し離れたところに立っていれば、この人が観察する風景は少しだけ異なったものになります。
 観察者の位置を正確に特定するならば、その人の目の位置が 基準となる物体 A のなかの一つの点( 直ぐ後で説明する 座標系Aの原点 O の位置 )に一致させる必要があります。しかし以後では簡単のため、〔 図 4-1a 〕に示した風景は 観察者 A が眺める風景と言うことにします。
〇〔 図 4-1b 〕の風景から 観察者B の周辺の部分を抜き出したものを、〔 図 4-2b 〕 に示します。
No2b; 電車の座席に座って観察する人  この図において、車体の天井、床、側面 は互いに連結して静止の状態を保っています。そこで
  「車体の天井 − 床 − 側面」
のひと続きの物体を選び、これらを併せて「基準となる物体 B」と呼ぶことにします。
 観察者B は、基準となる物体に対して静止した状態にあります。ゆえに〔 図 4-1b 〕に示した風景は、この 観察者B が観察した風景と言うことができます。
・ 観察者B は 基準となる物体 B のすぐ近くの座席に座っています。もし観察者B が 基準となる物体 B からもう少し離れたところに座っていれば、この人が観察する風景は少しだけ異なったものになります。
 観察者の位置を正確に特定するならば、その人の目の位置が 基準となる物体 B のなかの一つの点( 直ぐ後で説明する 座標系Bの原点 O の位置 )に一致させる必要があります。しかし以後では簡単のため、〔 図 4-1b 〕に示した風景は 観察者 B が眺める風景と言うことにします。
 このように 観察者 A が選んだ 基準となる 物体A ( 電車のレール − 道路 − 歩道 ) と 観察者 B が選んだ 基準となる物体B ( 車体の天井 − 床 − 側面 ) が異なっている場合には、観察する物体が同じであっても、それが 静止している状態 として観察されたり、あるいは、動いている状態 として観察されたりします。

 こうして次の結論を得ます:
『 観察される物体の運動の状態( 静止しているか、動いているか、また、動いていればどんな速度や加速度で動いているか )は、一通りではなく、基準となる物体の選び方によって異なる。』
 言い換えれば『 物体の運動は、基準となる物体の選び方に依存する 相対的なもの である 』、あるいは、さらに簡潔に述べれば
  『 すべての運動は 相対運動 ( relative motion ) である。』
となります。
〇 私たちは日常において、〔 図 4-1 〕に示した道路、歩道、レールなどが静止していることを認めます。これに対して、動いている電車の窓から外を眺めて道路、歩道、レールなどが動いているように見えたとき、それらは実際に動いているのではなくて、見た人がそのように感じるだけ、あるいは、目の錯覚に過ぎない、などと考えたくなります。
 このように考える根拠には、地面の上に敷設した道路、歩道、レールは決して動かない≠ニいう前提があります。ところが相対運動の考え方では、どんな物体の運動状態にもそのような前提条件を付けません。物体の運動とは、諸物体から基準となる物体の選んだとき、その基準となる物体から見たときの運動であると考えます。
座標系の設定 −座標系A と 座標系B−
 観察者と観察者が眺める物体の運動を数量的に表すために、座標系を用います( 座標系については、《 改定 第1章 ―第1ステップ―を参照 )。

 上述した「電車のレール − 道路 − 歩道」のひと続きの物体Aに固定して、「座標系A」を次のように設定します:
・ 街灯が歩道の表面と交わる点を 原点 O と定めます。O を通り道路との境界に立てられたブロックの列に沿った方向を 軸、これに直角で道路の面に沿った方向を y軸、 平面に垂直で街灯の柱に沿った方向を z軸 とします。
 次に、「車体の天井 − 床 − 側面」のひと続きの物体Bに固定して、「座標系B」を次のように設定します:
・ 電車の車体の床面が前方のドアに接する柱と交わる点を、原点 O と定めます。O を通り床面と前方の枠の下端に沿った方向を 軸、これに直角で床面の面に沿った方向を y軸、 平面に垂直で 前方のドアに接する柱に沿った方向を z軸 とします。
No3; 座標系 A と 座標系 B
 このように定めた座標系A と座標系Bを、簡潔に(Oyz)および(Oyz)と表し、それぞれ、〔 図 4-3 〕 の 左図 と 右図 に示します。
◇ 〔 図 4-3 〕に示した座標系Aと座標系Bは、対応する座標軸が平行な向き、すなわち
   軸 ‖ 軸、  y軸 ‖ y軸、  z軸 ‖ z
となるように設定されています。
 諸物体の運動を数量的に表すために、座標系を用いる理由は何なのでしょうか?  
〇 観察者A と観察者B が眺めた風景は、それぞれ
   〔 図 4-1a 〕( または〔 図 4-2a 〕 ) および〔 図 4-1b 〕( または〔 図 4-2 〕 )
は、人の目に映じた風景を表しています。これは、画家が対象物をキャンバス上の平面に描くように、目に映った三次元空間の立体を二次元の平面の図に置き換えて描いた「投影図」に相当します ( 《 改定 第1章 ―第1ステップ― を参照 )。
 投影図では、観察者に近いところの物体は大きいサイズ≠ノ描かれ、観察者から遠いところの物体は小さいサイズ≠ノ描かれます。そのため、近くにある物体ほどそれが動く速さは小さく、遠くにある物体ほどそれが動く速さは小さく観察されます。
 座標系A;( Oyz)および 座標系B;( Oyz )を用いて物体を記述した場合には、投影図に見られるこのような差異は生じません。座標系の原点からどの距離にある物体についても、その大きさは共通のサイズで記述されます。したがって、原点の近くにある物体も遠くにある物体も共通の速度の基準で表されます。このことが、数量的に表したい場合に座標系を用いる理由です。
物体の運動 と 物質粒子の運動
 物体とは『 その内部が物質で満たされているもの 』(《 改定 第1章 ―第1ステップ― 》)と定義され、さらに、物体の内部は無限小の「物質粒子」の集団で満たされている(《 改定 第3章 ―第1ステップ― 》)と仮定されました。
 物体の運動は、物体内部の物質粒子の分布状態によって定まる 物体の質量中心( 《 改定 第3章 ―第1ステップ― ) の運動で代表されます。さらに 物体の並進、回転、変形といった運動は、このような物質粒子の集団が行う運動として表されます。

 物体のなかの個々の物質粒子の位置、速度、加速度は、座標系の座標 で表されます。相対運動の問題では二つの座標系;座標系A と 座標系B;を用いるので、物質粒子の位置ベクトルを 、速度ベクトルを 、加速度ベクトルを と記せば、座標系A と 座標系B では、それぞれ 添字のA と 添字のB を付けて
   、および、
と表すことにします。
 次のべーじにおいて、 の関係式、 の関係式、 の関係式、 すなわち、「相対運動の式」を導くことにします( 《 改定 第4章 ―第2ステップ― 》 )。

 《 改定 第4章 ―第2ステップ― 》では、物質粒子P の 位置、速度、加速度 を 座標系 A で表した場合と 座標系B で表した場合とを結びつける 相対運動における関係式 を導きます。関係式は ベクトル または 座標成分 を用いて表されます。
《 改定 第4章 ― 第2ステップ― 》 へ進む



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