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《 改定 第3章 ―第1ステップ― 》
第1ステップでは、粒子系のモデルに基づいて有限個の物体から成る系の質量中心の算定を行うとともに、系と部分系≠フ関係を考察して 、系が 小さな系から大きな系へ と拡大する過程について述べます。さらに 物体が 固体、液体、気体 のどの状態にあっても、それらに適用できるモデルについて論じます。
質量中心の算定 −密度が一様で形状が単純な物体−
物体の質量中心 C の位置は、物体の質量中心の定義式;
rC ≡ (Σi miri)/ m (物体の質量中心、< 式 2-4 >)(再掲)
を用いて算定できます。この式は物体を構成する粒子について和の形で表されていますが、これを積分の形で表すこともできます。物体の内部を満たす物質の (質量) 密度を
ρ として、物体の質量中心 C の位置を
rC = ∫V { ρr } dV/m (物体の質量中心 a)
と表します。ここに
rC =
∫V { }
dV は、{ } のなかの量を体積
V の内部で体積積分する≠アとを意味します。上式の分母の
m は物体の質量で
m =
∫V {
ρ }
dV (物体の質量)
です。
内部の密度が一様で形状が単純な物体の質量中心の位置は、簡単な計算で求められます。物体の形が直方体、円柱、球の場合の計算を
《 密度が一様で単純な形の物体の質量中心 》 に示します。
内部の密度が一様で形状が単純でない物体の場合に その質量中心の位置を見出すには、<物体の質量中心 a)に示す体積積分を数値的に計算して求めます。
物体の集まりから成る系
これまでは、空間のなかに一つの物体が存在する場合を主に考察しました。ここで考察の対象を多数の物体の集まり≠ノ拡げ、これを物体の集まりから成る
系(
system)と呼ぶことにします。
空間に多数の物体の集まりから成る系が存在しているとします。例として5個の物体;
物体A、物体B、物体D、物体E、物体G
から成る系をとり上げ、それを模式的に
〔 図 3-1 〕 に示します。
◇ 〔 図 3-1 〕では、5個の物体を包む境界を (
太い) 一点鎖線で示します。その境界の内側には、(
内部を灰色で示す) 5個の物体が存在し、それぞれの境界を実線で示します。
◇ 外部の境界とその内側の境界で挟まれる空間領域は、薄い黄色で示してあります。外部の境界にも物体が存在するでしょうが、この図には示してありません。
物体A、物体B、物体D、物体E、物体G において、物体の質量中心;
C
A、C
B、C
D、C
E、C
G
の位置を 積分形の(物体の質量中心 a)を用いて算定します。それらの位置を〔 図 3-1 〕にオレンジ色の丸印で示します。
5個の物体から成る系の質量中心の位置ベクトルを (
rC)
sys と表すと、それは
(
rC)
sys = {
mA(
rC)
A+
mB(
rC)
B+
mD(
rC)
D+
mE(
rC)
E+
mG(
rC)
G}/
m sys
(
5個の物体から成る系の質量中心)
となります。これは 和の形の < 式 2-4 >) を用いて算定します。ここに
msys =
mA+
mB+
mD+
mE+
mG (
5個の物体から成る系の質量)
です。
(5個の物体から成る系の質量中心) から、この系の質量中心の位置 C
sys が得られます。それを〔 図 3-1 〕に (
少し大きな) オレンジ色の丸印で示します。
この例を一般化すれば、任意の個数の物体から成る系の質量中心は
(rC)sys = {mA(rC)A+mB(rC)B+mD(rC)D+ …}/ msys
(任意の個数の物体から成る系の質量中心)
となります。ここに
msys =
mA+
mB+
mD+ … (
任意の個数の物体から成る系の質量)
です。
◇ 任意の個数の物体から成る系の質量中心を作図によって求める巧みな方法が、マックスウェル( J.C.Maxwell )によって提案されています(
《 参考資料 3-1 》)。その方法を
《 系の質量中心を作図によって求める 》 に示します。
系の集まりから成る大きな系 − 系と部分系 および 系の空間的なスケール −
例として [ 図 3-1 ] に示した系は、5個の物体で構成されています。この系は、当然ながら 5個のどの物体よりも大きな空間的な広がりを持っています。
物体から成る系がいくつか集まって、新たな系を作るとします。この 新たに作られた系 は、それを構成している 物体から成る系≠フどれよりも 大きい空間的な広がりを持っているので、これを大きな系≠ニ呼ぶことにします。
さらに、大きな系がいくつか集まって、新たな系を作るとします。この 新たに作られた系 は、それを構成している 大きな系≠フどれよりも 大きい空間的な広がりを持っているので、これをさらに大きな系≠ニ呼ぶことにします。
このように物体の集まりから成る系から出発して、次々に系を集めて新たな系を作ってゆけば、その新たな系の空間的な広がりはどんどん拡大してゆきます。すなわち
{ 物体の集まりから成る系 } ⇒ { 系の集まりから成る大きな系 } ⇒ { {大きな系の集まりから成る
さらに大きな系 } ⇒ …
( 新たな系が作られてゆく系列 )
といった系列が作られ、これらの系が空間で占める領域の広がり、すなわち系の空間的なスケール≠ヘ、次第に大きくなってゆきます。一般的に述べれば
『 系を集めて新たな系を作ると、新たな系は元の系より大きな空間的な広がりを持つ 』
となります。このとき、新たな系を作っている元の系を部分系≠ニいいます。
( 新たな系が作られてゆく系列 )のなかの 任意の系 に着目します。この系の内部にはいくつかの部分系が存在し、部分系どうしは内力を及ぼし合います。作用・反作用の法則から、内力は互いに打ち消し合って系の運動に影響を与えません。一方、系はその外部に存在する系から外力を及ぼされます。運動の第2法則から
msys{d 2(rC)sys/dt2 } = Fsys(ext) (系の質量中心の運動方程式)
が成立します。ここに
msys は 系の質量、(
rC)
sys は 系の質量中心の位置ベクトル、
Fsys(ext) は 系に作用する外力 です。
ここで、着目している系の質量中心の運動について考察します:
〇 着目している系の外部に物質が存在しない場合には、この系は孤立系であり、系に作用する外力はゼロ≠ナす。その場合には (系の質量中心の運動方程式) から、系の質量中心は 空間において静止するか、あるいは、等速度で運動≠オます。
〇 着目している系の外部に物質が存在する場合には、その物質を内部にとり込んだもっと大きな系≠作ります。もっと大きな系 は 孤立系 になるので、系の質量中心は 空間において静止するか、あるいは、等速度で運動≠オます。
このように系の空間的なスケールを拡大してゆけば、やがて空間に存在する全ての物質をとり込んだ孤立系≠ノ行き着くのではないかと想像することができます。系と部分系の運動 および空間の広がりとは、相互に関連していることが示唆されます。次章では、この問題を「相対運動」(
) に関連させてとり上げます。
粒子系モデル と 連続体のモデル
物体の集まりから成る系 や 系の集まりから成る大きな系 について、これまで 物体は固体の状態である場合を想定していました。物体の内部が微小な粒子で満たされていると考える「粒子系のモデル」(
) では、物体が固体の場合には、ほとんどの粒子は物体の内部と外部を分ける境界面≠フ内側の領域に存在します。粒子は物体の内部領域で運動しますが、境界面では跳ね返されて物体の外部へは出られません。このとき、境界面は物体を通さない 不透過性の面 として扱われます。
物体が固体の状態だけでなく 液体 あるいは 気体の状態となっている場合 はどうでしょう。その場合には、空間に固定した境界面が設定できないことがあります。また 境界面を通して粒子が出入りすることもあります。
ここで、境界面が粒子を通すことができる半透過性の面 であるとします。粒子は一部が外部へ流出することができ、また外部にも粒子が存在するなら、外部から内部へ粒子が流入することもできます。半透過性の境界面であれば、粒子は
〔 図 3-2 〕 のように 物体の内側だけでなく 外側の空間にも分布した状態になります。
物体が固体、液体、気体のいずれの状態にあっても、ニュートン力学では物体を巨視的な対象として扱います。巨視的な状態の力学量は、空間で連続的に変化する量として表されます。そこで粒子系のモデルを用いて、物体の力学量を連続的な量として記述する方法を見出すことが必要になります。
18世紀から19世紀にかけて、ニュートン力学の概念の精密化と数学的な整備が進められました。その結果として、物体の力学量を連続的に変化する量として扱う数学的な方法が開発されました。その方法を用いて物体の挙動を解析するモデルを、
連続体のモデル といいます。そのモデルは、物体の固体、液体、気体の状態を統一した観点から記述します
( 注 3-1 )。
◇ オイラー ( Euler,L.(1707年-1783年) は、数学だけでなく物理学の分野においても、剛体の力学、弾性体の力学、流体の力学 の発展に重要な寄与をしました。オイラーがどのようにニュートン力学を発展させたかについては、《 参考資料 3-2 》 に詳しい解説があります。
( 注 3-1 )力学の教科書では、固体、液体、固体の状態にある物体をまとめて記述する方法を 連続体力学 (continuum mechanics) と呼ぶことが多いようです。しかし 物体がどんな状態であっても、その力学的な挙動を説明するときには、ニュートン力学が基本原理になっています。したがって 用いられる力学は、あくまで ニュートン力学 です。その方法が ニュートン力学を適用したモデルであることから、ここでは それを連続体力学≠ナはなく連続体のモデル≠ニ呼ぶことにします。
遠隔力と接触力について−遠隔作用と近接作用−
物体に作用する力を「遠隔力」と「接触力」の二つに分けましたが、接触力が物体に触れて感覚できる力であるのに対して、遠隔力は離れた物体どうしが及ぼし合う力であり、私たちの感覚を通して理解することが難しい力です。地球と月が遠隔力の重力を及ぼし合う場合を考えると、ほとんど何も物質が存在しない空間を通して二つの天体が力を及ぼし合うというのは何だか不思議な感じがします。
ニュートンは、天体と天体が及ぼし合う重力を「万有引力の法則」として表し、その力の大きさは天体間の距離の2乗の逆数に比例するとしました。一方では電磁気的な現象として、二つの電荷どうし、あるいは、二つの磁極どうしが力を及ぼし合うことが知られています。それらは「電気的なクーロンの法則」あるいは「磁気的なクーロンの法則」として表され、その力の大きさは二つの電荷あるいは二つの磁極の距離の2乗の逆数に比例します。
このように遠隔力(
重力、電気的な力、磁気的な力)は、離れた位置に存在する 物体と物体、電荷と電荷、磁極と磁極 が空間を隔てて直接に力を作用します。このような作用のなされ方は
遠隔作用(
action at a distance )と呼ばれます。
ニュートン力学とは別の物理学の分野である「電磁気学」においては、空間を満たす
場(
field )という概念が用いられます。それに基づいて、電気的な力や磁気的な力は次のように説明されます。
〇 電荷を持った二つの物体が、空間で離れた位置にいるとします。電荷を持った物体は、それに近接した空間のところに 電場( electric field )を形成します。さらにその電場は、それに近接したところに新たな電場を作り出します。このような過程が次々と繰り返されて、電場は空間を拡がってゆきます。電場が離れた位置にいるもう一つの物体に到達したとき、その物体は電気的な力を及ぼされることになります。
〇 磁極を持った物体についても同様で、その物体は空間に 磁場( magnetic field )を形成し、これが空間を拡がって他の磁極を持った物体の位置に到達したとき、二つの物体は磁気的な力を及ぼすことになります。
〇 電荷(または磁極)を持った物体が加速度を持って運動した場合には、作られる電場(または磁場)は波動として空間を伝播して行きます。電場と磁場の波が真空中を伝わる速さは、光の速さ c(=2.998×10 8 m/s)に等しくなることが確かめられています。
こうして電荷(または磁極)を持った物体どうしは、物体と物体が直接に作用するのではなく、その間の空間を満たす電場や磁場といった媒質による局所的な作用を通して行われます。このような作用のなされ方は
近接作用(
action through medium )と呼ばれます。
電荷(または磁極)を持った物体どうしは、電場や磁場のような媒質を通して行われますが、質量を持った物体どうしは、そのような媒質が存在しない空間を通して重力を作用します。アインシュタインは 1914 年に一般相対性理論を提唱し、重力の作用について次のように説明しました。
〇 質量を持った物体が存在すると、周囲の空間には 重力場( gravitational field )が形成され、その空間は歪んだ(ひずんだ)状態になります。質量を持った物体が加速度運動をすると、重力場の歪み(ゆがみ)の時間的な変動が 重力波( gravitatinal wave )として空間を伝播します。重力波の伝わる速度は、電磁場の場合と同じく光の速さ c になります。
電磁気的な力 および 重力は、このようにして、ともに近接作用を通して物体から物体に伝えられると考えられています。それにも関わらず、重力や電磁気的な力を簡単な形の「遠隔力」で表すことができる理由は何なのでしょうか?
ニュートン力学では、重力による歪みが小さい空間において、諸物体が光速に比べてはるかに小さい速度で運動する場合を扱います。このような物体の間では、重力や電気的な力が瞬時(
しゅんじ)に伝わります。したがって、これらの力を時間に無関係で簡単な形で表した「ニュートンの万有引力の法則」、「電気的なクーロンの法則」、「磁気的なクーロンの法則」で置き換え、これらを良い近似式として用いることができるのです。
◇ 《 参考資料 3-1 》
J.C.Maxwell、≪ Matter and Motion ≫、chap4, p44 - p45, Dover Publications, Ins, 1991.
◇ 《 参考資料 3-2 》
山本義隆著、≪ 古典力学の形成 −ニュートンからラグランジェへ− ≫、日本評論社、1997年 第1版第1刷、2004年 第1版第7刷 発行:第2部、10.オイラーによる力学原理の整備、p.168-p.178。
《 改定 第3章 ―第1ステップ― 》では、初めに 物体の粒子系のモデル≠用いて有限個の物体から成る系の質量中心≠フ位置を算定しました。続いて系と部分系≠フ関係を考察することにより、空間的なスケールが小さな系から大きな系へと拡がってゆく過程を述べるとともに、系の質量中心の運動はニュートンの運動の三法則と同じ形式に従って行われることを示しました。さらに 物体が 固体の状態 だけでなく 液体や気体の状態 に在る場合にも適用できるモデルとして、粒子系モデル を発展させた 連続体モデル が必要であることを指摘しました。
第2ステップでは、複数の物体から成る系が接触力を受けない簡単な場合について、いくつかの例を紹介します。
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