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《 改定 第4章 ―第3ステップ― 》
 第3ステップ では、前のページで得た「ベクトルで表した相対運動の式」および「座標成分で表した相対運動の式」を用いて相対運動の分類を行うとともに、いくつかの具体的な例を調べることにします。
相対運動の分類
 相対運動について分類を行い、簡単なものから複雑なものに至るまで、相対運動をいくつかの型に分けることができます。

 相対運動の問題は、空間にある諸物体から「物体A」と「物体B」の二つの物体を選び出すことから始まります。それぞれの物体に固定して「座標系A;( Oyz ) と 「座標系B;( Oyz ) 」を設定し、座標系Aの原点 O の位置に「観察者A」を、座標系Bの原点 O の位置に「観察者B」を配置します。観察者Aと観察者Bのそれぞれは、周囲の物体の運動を観察します。
 ここで
  『 座標系Aは静止した状態にあり、座標系Bは空間で運動している状態にある 』
とします。これは観察者Aが観察した二つの座標系の運動状態であり、座標系Aに固定されている観察者Aが眺めると、座標系Aは静止した状態にあり、座標系Bは一般に空間で運動している状態になるのです( 《 改定 第4章 ―第1ステップ― を参照 )。
〇 これとは逆に、『 座標系Aは静止した状態にあり、座標系Bは空間で運動している状態にある 』とすることもできます。これは観察者Bが観察した二つの座標系の運動状態であり、座標系Bに固定されている観察者Bが眺めると、座標系Bは静止した状態であり、座標系Aは一般に空間で運動する状態となります。
 物体のなかの任意の「物質粒子」に着目し、その位置、速度、加速度について、一つは座標系Aの 原点O を始点とするベクトルで、もう一つは座標系Bの 原点O を始点とするベクトルで表します。両方のベクトルを結びつける式を見出し、これを「ベクトルで表した位置、速度、加速度の関係式」といいます。この関係式を、ベクトルの代わりに座標成分を用いた式に書き換えることができます。これを「座標成分で表した位置、速度、加速度の関係式」といいます。ベクトルおよび座標成分で表した関係式を総称して「相対運動の式」と呼ぶことにします( 《 改定 第4章 ―第2ステップ― を参照 )。

 相対運動の式によれば、相対運動の型を定めるのは一番目に
  『 座標系Bの 原点Oが、空間でどのような運動を行うか? 』
であり、二番目に
  『 座標系Bが、原点Oのまわりでどのような回転を行うか? 』
です。まとめて言えば、観察者Aが眺めたとき、座標系Bがどのような運動を行うか? ということです。

 相対運動のすべての型は、この一番目の運動と二番目の運動を組み合わせたものとして表されます。適当に組み合わせをして、相対運動を簡単なものから複雑なものまで、いくつかの型に分類することができます。
相対運動の簡単な型− (イ)の型 および(ロ)の型
 相対運動として単純で典型的な例を知るために、初めに相対運動の簡単な型の二つを取り上げます。上述した一番目の『 座標系Bの 原点Oが、空間でどのような運動を行うか? 』において、簡単な運動は 原点O が直線に沿って進む運動です( これには 原点O が静止する場合も含めることにします )。二番目の『 座標系Bが、原点Oのまわりでどのような回転を行うか? 』において、簡単な運動は座標系Bの回転の角速度が( 変化せずに )一定の状態に保たれる運動です。
 相対運動の型として、この一番目と二番目の簡単な運動を組み合わせて、次のような(イ)の型 および(ロ)の型 が作られます。すなわち
  (イ)の型:『 原点Oが直線に沿って進み、座標系Bが回転しないとき 』
  (ロ)の型:『 原点Oが静止し、座標系Bが一定の角速度で回転するとき 』

 [ 図 4-5 ] に 座標系Bの原点O が直線に沿って進む(イ)の型 の運動の有様を、また [ 図 4-6 ] には 静止した原点O のまわりに座標系Bの座標軸が一定の角速度 Ω で回る(ロ)の型 の運動の有様を示します。[ 図 4-5 ] では 座標系Bの座標軸は回転せず、[ 図 4-6 ] では座標系Bの座標軸は 原点O のまわりに角速度 Ω で回転します。なお 二つの [ 図 ] は、座標系Bの座標軸を省略して描いてあります。
No5; 座標系Bの(イ)の型の運動 No6; 座標系Bの(ロ)の型の運動
 以下において、初めに(イ)の型 における相対運動 および その例≠ノついて述べ、続いて(ロ)の型 における相対運動 および その例≠ノついて述べます。その後で少しづつ一般的な場合に拡張し、いくらか複雑な型の相対運動について述べることにします。
(イ)の型 における相対運動 および その例
 (イ)の型 における相対運動では、[ 図 4-5 ] に示したように、座標系Aの空間において 原点O が一つの直線に沿って進みます。この直線の方向を基本ベクトル の方向に定めます。

 ここで、(イ)の型に当てはまる相対運動の例として、「電車が走行する郊外の風景」を取り上げてましょう( 《 改定 第4章 ―第1ステップ― の [ 図 4-1a ] )。これを [ 図 4-7 ] に示します。
 水平な地表面の上に歩道、車道、線路が敷かれ、線路の上を電車が走行し、車道の上を自動車が走行しています。線路の上方には架線が、歩道には街灯が設置されています。歩道と車道 および 車道と線路の境界は水平方向に延びた直線であり、電車の車体の床面は水平になっています。
No7;電車が走行する郊外の風景
 歩道に 座標系A;(O) を、電車の車体の床面に 座標系B;(O) を設置します。座標軸 と 座標軸 は、直線に沿った水平方向にとります。したがって、軸 と 軸 は鉛直上方を向きます。
 座標系Aの原点O[ 図 ] の黒色の丸)の位置に 観察者A([ 図 ] の橙色の丸 )がおり、この風景のなかの諸物体の運動を観察しています。[ 図 4-7 ] の風景は、観察者Aが眺めた 時刻 における風景を表しています。また 座標系Bの原点O[ 図 ] の黒色の丸)の位置には 観察者B([ 図 ] の緑色の丸)がおり、この風景のなかの諸物体の運動を観察しています。

 物体のなかの物質粒子として、次の二つ;
   物質粒子C および 物質粒子Q ([ 図 ] の灰色の丸
に着目し、観察者A と 観察者B のそれぞれが、これら物質粒子の運動をどのように観察するのかについて調べます。ここに 物質粒子C は
   [ 自動車の屋根の上にあり、軸に平行な方向に進む点 ]
であり、物質粒子Q は
   [ 電車の車体の床面上において 軸上の負の側から 原点O に向かって進む点 ]
です。
〇 分かり易くするため、この例に関する式には ( (イ) の例-1 )、(イ) の例-2 )、… のように番号を付けることにします。
 [ 図 4-7 ] のいくつかの点([ 図 ] の青色の丸)は、次のことを示します:
・ D;C から車道の上に下した垂線の足、     ・ G;D から 軸上に下した垂線の足
・ F:原点O から車道の上に下した垂線の足、  ・ T;F から 軸上に下した垂線の足
これらの点を結ぶ線分の長さは次のようです:
・ ;線分OG の長さ、  ・ ;線分GD の長さ   ・ ;線分CD の長さ
・ ;線分OT の長さ、   ・ ;線分TF の長さ、   ・ ;線分OF の長さ
・ ;線分OQ の長さ
 これら線分の長さのうち、 は 時間 が経過しても一定の値を保ちます。これに対して は、時間 とともに一般には変化します。

 電車の床面上に固定された 座標系Bの原点O の位置は、座標系Aの原点O を始点とする位置ベクトルの で指定されます。[ 図 4-7 ] から、その座標成分は , y, となります。これらの時間に関する1階と2階の導関数は、原点O の速度と加速度を与えます。 は時間とともに一般には変化し、 は定数なので、原点O の位置、速度、加速度の座標成分は次のようになります:
     ,  y,  
     ,  yy = 0,   = 0
     ,  yy = 0,   = 0
                              ( (イ) の例-1 )
ここに は、O の速度と加速度の 軸方向 の座標成分を表します。

 ベクトルで表した相対運動の式の < 式 4-1a >、< 式 4-2a >、< 式 4-3a > ( 《 改定 第4章 ―第3ステップ― を参照 )は、原点O のまわりの 角速度 Ω と角加速度 Σ をゼロとし、また ((イ) の例-1 ) を用いれば
  
                  ( (イ) の例-2 )
  
となります。
〔 表 4-5 〕 〇 この型の相対運動の式では、座標系Bの座標軸の回転に伴う 接線速度、接線加速度、向心加速度、コリオリの加速度 はすべてゼロになります。
 座標系Aと座標系Bの座標軸の向きは
  , ,    ((イ) の例-3 )
と設定されています。この関係を座標系Aと座標系Bの基本ベクトルの関係で表すと
 , ,  ((イ) の例-4 )
となります。変換行列[ ]は 座標系Aと座標系Bの基本ベクトルのあいだの内積から計算されますが、 ((イ) の例-4 ) から 〔 表 4-5 〕 に示す ((イ) の例-5 ) の3行3列の単位行列になります(《 変換行列 と その例 》 を参照 )。

 相対運動の式として、ここではベクトルで表した式でなく、座標成分で表した <式 4-1b >、< 式 4-2b >、< 式 4-3b > の式を用いることにします( 《 改定 第4章 ―第3ステップ― を参照 )。
 これらの式において ΩΣ の座標成分をすべてゼロと置き、変換行列が ((イ) の例-5 ) の単位行列であることを考慮すれば、座標成分で表した相対運動の式は 〔 表 4-6 〕 に示す ((イ) の例-6 ) のようになります。

〔 表 4-6 〕 物質粒子Cの運動
 [ 図 4-7 ] から、観察者Aが眺めた物質粒子Cの位置の座標成分は
   , ,
               ((イ) の例-7a )

となります。物質粒子Cの 速度と加速度の座標成分は、上記の ((イ) の例-7a ) の時間 に関する1階および2階の導関数で与えられ、それぞれ
   ,
    = 0,
    = 0
               ((イ) の例-7b )

および
   22,
   22 = 0,
   22 = 0
                ((イ) の例-7c )

となります。ここに および は、それぞれ、座標系Aの空間における 物質粒子Cの 速度成分 および 加速度成分 で、両者のあいだには
     
の関係があります。
 ((イ) の例-7a )、((イ) の例-7b )、((イ) の例-7c ) の結果をまとめて示せば、次のようになります:

◇ 観察者Aが眺めたとき 
,   ,  
,   = 0,   = 0          ((イ) の例-7 )
,   = 0,   = 0
 同じ物質粒子Cを観察者B が眺めたときの運動を求めるには、〔 表 4-6 〕の相対運動の式において、左辺の位置、速度、加速度の座標成分に上記の ((イ) の例-7 ) を代入します。すると 観察者Bが眺めた物質粒子Cの位置、速度、加速度の座標成分について、次の結果が得られます。すなわち

◇ 観察者B が眺めたとき
,  ,  
,   = 0,   = 0        ((イ) の例-8 )
,   = 0,   = 0
となります。
〇 物質粒子Cの運動を 観察者Aが眺めたとき(((イ) の例-7 ))と 観察者Bが眺めたとき(((イ) の例-8 ))を比較すると、次のようになります( 物質粒子C≠ニ言う代わりに、それを有する自動車≠ニ言うことにします ):
・ 観察者Aが眺めた自動車が 速度 と加速度 で走行する状態にあるとき、それと同じ方向に速度 と加速度 で進む電車に乗った観察者Bが眺めると、その自動車は電車の速度と加速度を差し引いた速度( )と加速度( )で進むように観察される。
〇 特別の場合として、観察者Aが眺めた自動車が 静止の状態( = 0、 = 0 )にあるときは、次のようになります:
・ 電車に乗った観察者Bが自動車を眺めると、それは電車と同じ速度と加速度でもって、電車と反対の方向に進むように観察される。
物質粒子Q の運動
 [ 図 4-7 ] から、観察者Bが眺めた物質粒子Qの 位置の座標成分は、
   = −,   = 0,  = 0           ((イ) の例-9a )
となります。物質粒子Qの 速度と加速度の座標成分は、上記の ((イ) の例-9a ) の時間 に関する1階および2階の導関数で与えられ、それぞれ
  (−)/,
   = 0,  = 0    ((イ) の例-9b )

および
   2(−)/2,
   = 0,   = 0   ((イ) の例-9c )

となります。ここに および は、それぞれ、座標系Bの空間における 物質粒子Qの 速度成分 および 加速度成分 で、両者のあいだには
     
の関係があります。
 ((イ) の例-9a )、((イ) の例-9b )、((イ) の例-9c ) の結果をまとめて示せば、次のようになります:

◇ 観察者B が眺めたとき 
= −,   = 0,  = 0
,   = 0,   = 0
,   = 0,   = 0            ( (イ) の例-9 )
 同じ物質粒子Qを観察者A が眺めたときの運動を求めるには、〔 表 4-6 〕の相対運動の式において、右辺第2項の位置、速度、加速度の座標成分に上記の ((イ) の例-9 ) を代入します。すると 観察者Aが眺めた物質粒子Qの位置、速度、加速度の座標成分について、次の結果が得られます。すなわち

◇ 観察者A が眺めたとき
,  ,  
,   = 0,   = 0         ( (イ) の例-10 )
,   = 0,   = 0
となります。
〇 物質粒子Qの運動を 観察者Bが眺めたとき(((イ) の例-9 ))と 観察者Aが眺めたとき(((イ) の例-10 ))を比較すると、次のようになります:
・ 電車に乗った観察者Bが眺めた物質粒子Qが 速度 と加速度 で車内を進む状態にあるとき、電車の外側にいる静止した観察者が眺めると、その物質粒子Qは電車の速度 と加速度 を加え合わせた 速度( )と 加速度( )で進むように観察される。
〇 特別の場合として、観察者Bが眺めた物質粒子Qが静止の状態( = 0、 = 0 )にあるときは、次のようになります:
・ 電車の外部にいる観察者Aが物質粒子Qを眺めると、それは電車と同じ速度と加速度でもって、電車と同じ方向に進むように観察される。
 日常において、私たちは 物質粒子C や 物質粒子Q の運動に見られるような幾多の相対運動を観察します。
(ロ)の型 における相対運動 および その例
 (ロ)の型 における相対運動では、〔 図 4-6 〕に示したように、座標系Aの空間において 静止している 座標系Bの原点 O のまわりに 座標系Bの座標軸が一定の角速度 Ω で回転します。

 ここで (ロ)の型に当てはまる相対運動の例として、「回転する展望台から眺めた風景」を取り上げてましょう。これを [ 図 4-8 ] に示します。
 水平な地表面に建てられた土台の上に、円筒形の展望台が乗せられています。展望台は 円筒の中心軸のまわりに一定の角速度 Ω で回転しており、その内部にいる人たちが透明な窓を通して外側の風景を眺めることができます。床面は滑らかで、摩擦力は作用しないとします。
 地表面に 座標系A;( Oyz ) を、展望台の床面に 座標系B;( Oyz ) を設置します。ここで、z軸 と z 軸の方向を鉛直上方に設定します。したがって、-y平面 と -y平面 は、ともに水平面になります。
 座標系Aの原点O は静止し、軸、y軸、z軸 の方向は時間とともに変化しない一定の方向を向きます。これに対して 座標系Bの座標軸 軸 と y軸 は、時間の経過とともに床面に沿って 原点O のまわりに 角速度 Ω で回転し、時刻 では 初期時刻 =0 における方向から角度が Ω だけ回った方向を向きます。
No8;回転する展望台から眺めた諸物体
 座標系Aの原点O[ 図 ] の黒色の丸)の位置に 観察者A([ 図 ] の橙色の丸 )がおり、この風景のなかの諸物体の運動を観察しています。[ 図 4-8 ] の風景は、観察者Aが眺めた 時刻 における風景を表しています。また 座標系Bの原点O[ 図 ] の黒色の丸)の位置には 観察者B([ 図 ] の緑色の丸)がおり、この風景のなかの諸物体の運動を観察しています。

 諸物体のなかで特に観察者A が注意して観察するのは、軸上にある「物質粒子Q」の運動 および 展望台の外部にある柿の木から地面に落下する柿の実のなかの「物質粒子C」の運動です。同様に観察者Bも、 物質粒子Q および 物質粒子C の運動を注意して観察します。
 観察者A と 観察者B のそれぞれが、これら物質粒子の運動をどのように観察するのかについて調べます。ここに 物質粒子Q は、座標系Aの空間において
   [ 展望台の床面の中心にある 座標系Bの原点O から、軸 に平行な 線分OT に沿って進む点 ]
であり、物質粒子C は
   [ 柿の実のなかの点が、上方の位置 D から鉛直下方に落下する点 ]
です。
〇 分かり易くするため、この例に関する式には ( (ロ) の例-1 )、(ロ) の例-2 )、… のように番号を付けることにします。
 [ 図 4-8 ] のいくつかの点([ 図 ] の青色の丸)は、次のことを示します:
・ T;O を通る 軸 に平行な線が展望台の側面と交わる点
・ D;初期時刻 =0 における C の位置、  ・ G;D から -y平面に下した垂線の足
・ Y:G から 軸上 に下した垂線の足
・ F:O から -y平面 に下した垂線の足、・ N;F から 軸上 に下した垂線の足
これらの点を結ぶ線分の長さは次のようです:
・ ;線分OQ の長さ、  ・ S;線分OT( 展望台の床面の円の半径 )
・ ;線分DC の長さ、   ・ ;線分DG の長さ   ・ ;線分YG の長さ
・ ;線分OY の長さ
・ ;線分OF の長さ、   ・ ;線分NF の長さ   ・ ;線分ON の長さ
 これら線分の長さのうち、S、 は 時間 が経過しても一定の値を保ちます。これに対して は 時間 とともに変化します。

 展望台の床面の中心にある 座標系Bの原点O の位置は、座標系Aの原点O を始点とする位置ベクトルで指定されます。[ 図 4-8 ] から その位置ベクトルの座標成分は、, y, となっています。これらの時間に関する1階と2階の導関数は、O の速度と加速度を与えます。 は定数なので、O の速度と加速度はゼロになります。ゆえに
     ,  y,  
      = 0,  yy = 0,   = 0
      = 0,  yy = 0,   = 0
                              ( (ロ) の例-1 )

となります。
 ベクトルで表した相対運動の式の < 式 4-1a >、< 式 4-2a >、< 式 4-3a > 《 改定 第4章 ―第3ステップ― を参照 )は、原点O の速度と加速度 および O のまわりの角加速度 Σ はゼロであるので、((ロ) の例-1 )を用いれば
  
  Ω ×              ((ロ) の例-2)
  Ω × (Ω × ) + 2(Ω × ) +
となります。
〔 表 4-7 〕 〇 この型の相対運動の式では、座標系Bの並進に伴う 並進速度 と 並進加速度 はゼロであり、座標系Bの回転に伴う 接線速度、向心加速度、コリオリの加速度が現れます。
 座標系Aと座標系Bの座標軸の向きは
      ( (ロ) の例-3 )
と設定されました。この関係を座標系Aと座標系Bの基本ベクトルの関係で表すと
   ( (ロ) の例-4 )
となります。
〔 表 4-8 〕  変換行列[ ]は、座標系Aと座標系Bの基本ベクトルのあいだの内積から計算されます。 [ 図 4-8 ] および ( (ロ) の例-4 ) を用いて求めれば、 〔 表 4-7 〕 の ((ロ) の例-5) に示す行列が得られます(《 変換行列 と その例 》 を参照 )。これは 時間 とともに変動する変換行列です。

 相対運動の式として、座標成分で表した <式 4-1b >、< 式 4-2b >、< 式 4-3b >( 《 改定 第4章 ―第3ステップ― を参照 ) を用いることにします。ただし、これらの式には次の操作を施します:
◇  および Σ の座標成分をすべてゼロと置きます。
◇ 2番目と3番目の式の右辺にある 、および、
  cosΩ sinΩ
  sinΩ cosΩ
 =0
  cosΩ sinΩ
  sinΩ cosΩ
 =0
        ((ロ) の例-6)
を代入します。
 その結果、〔 表 4-8 〕 の ((ロ) の例-7) に示すような 座標成分で表した位置、速度、加速度に関する相対運動の式が得られます。三つの式の右辺において最後の項にある 変換行列の[ ]には、〔 表 4-7 〕の ((ロ) の例-5 ) を代入します。
〇 上記の ((ロ) の例-6) に示した 、および、 は、座標成分で表した相対運動の式において次の式で与えられたものです( 《 改定 第4章 ―第2ステップ ― 》 を参照 ):
  111213,    212223,
  313233,    111213,
  212223,  313233
これらの式において、右辺の変換行列の行列成分 ij(ij = 1,2,3 )に〔 表 4-7 〕に示した ((ロ) の例-5 ) の行列成分を代入すれば、 ((ロ) の例-7 ) が得られます。

 位置、速度加速度に関する ((ロ) の例-7 )を用いて、[ 図 4-8 ] に示す 物質粒子Q および 物質粒子C の相対運動を計算します。

物質粒子Q の運動
 [ 図 4-8 ] から、観察者Aが眺めた物質粒子Qの 位置の座標成分は、
  ,  ,             ((ロ) の例-8a )
となります。物質粒子Qの 速度と加速度の座標成分は、上記の ((ロ) の例-8a ) の時間 に関する1階および2階の導関数で与えられ、それぞれ
  ()/,
   = 0,  = 0      ((ロ) の例-8b )

および
   2()/2 22,
   = 0,   = 0   ((ロ) の例-8c )

となります。ここに および は、それぞれ、座標系Aの空間における 物質粒子Qの 速度成分 および 加速度成分 で、両者のあいだには
     
の関係があります。
 ((ロ) の例-8a )、((ロ) の例-8b )、((ロ) の例-8c ) の結果をまとめて示せば、次のようになります:

◇ 観察者A が眺めたとき 
,  , 
,   = 0,   = 0           ( (ロ) の例-9 )
,   = 0,   = 0
 同じ物質粒子Qを観察者B が眺めたときの運動を求めるには、〔 表 4-8 〕の相対運動の式において、左辺の位置、速度、加速度の座標成分に上記の ((ロ) の例-9 ) を代入します。すると 観察者Bが眺めた物質粒子Qの位置、速度、加速度の座標成分について、次の結果が得られます:

◇ 観察者B が眺めたとき
cosΩ,   = − sinΩ,  
cosΩΩ sinΩ,   = − sinΩΩ cosΩ,
= 0                           ( (ロ) の例-10 )
cosΩΩ2 cosΩ−2Ω sinΩ,
= − sinΩΩ2 sinΩ−2Ω cosΩ,  = 0

 観察者Aが眺めた ((ロ) の例-9 ) の運動は、観察者Bが眺めると ((ロ) の例-10 ) の運動として観察されます。その理由は、次のような図形的な考察からも理解することができます。
◇ 観察者Aが眺めたときの前図 [ 図 4-8 ] では、座標系Aの軸と軸が静止し、座標系Bの軸と軸が 角速度Ωで反時計まわり≠ノ回転しています。
◇ 同じ運動を観察者Bが眺めると、座標系Bの軸と軸が静止し、座標系Aの 軸 と 軸が 角速度 Ω で時計まわり≠ノ回転している運動として観察されます。これらの座標軸の 時刻 における向きを、[ 図 4-9 ] に示します。
〔 図 4-9 〕 ◇ この図において、物質粒子Q は時刻のとき 軸の上の Q と記した位置にいます。軸が回転すると、物質粒子Qには速度と加速度が生じます。図形的な考察を行うと、と反対向き の「速度 Ω」が生じ、また と反対向きの「向心加速度;Ω 2」および と反対向き の「コリオリの加速度;2Ω」が生じることが導かれます。それらを、図の 紫色 および ピンク色 の矢印ベクトルで示します。ここに 軸方向の単位ベクトルで、軸 方向の単位ベクトルです。
◇ [ 図 4-9 ] に記した物質粒子Q の位置、および、速度と加速度ベクトルの 軸 と 軸 への座標成分をとると、その結果は ((ロ) の例-10) と一致することが確かめられます。

 物質粒子Q の時々刻々の位置、すなわち「軌道」を求めるためには、速度 と 加速度 がどんな時間の関数であるかを知る必要があります。ここでは がゼロのとき、したがって
     = 一定,   = 0          ((ロ) の例-11)
という簡単な場合をとり上げます。
〔 図 4-10 〕   であることから
      ((ロ) の例-12)
となります。ただし 初期時刻=0 で = 0 としました。
 ((ロ) の例-12) を ((ロ) の例-10) に代入すると、物質粒子Qの位置の座標成分 は次のようになります:
    cosΩ,
   = − sinΩ
            ((ロ) の例-13)


 ここで次の二つの時間;
    ,
    rot =2πΩ
            ((ロ) の例-14)

を導入します。ここに
{;物質粒子Qが 一定の速度 で床面に沿って原点から 半径 の距離を進むのに要する時間}
{rot;座標軸 が 回転軸のまわりに1回転するのに要する時間}
です。rot を ((ロ) の例-13) に代入すると
   = () cos {2π(rot) () },
   = −() sin {2π(rot) () }   ((ロ) の例-15)

となります。

 無次元量の 時間 と パラメータ rot を与えて ((ロ) の例-15) の数値計算を行い、その結果を 横軸に をとり、縦軸に をとってグラフに表します。
◇ 一例として、パラメータを rot = 1/8 に選び、時間変数を ゼロから まで8等分した
    = 0, 1/8,  2/8,  3/8,  4/8,  5/8,  6/8,  7/8,  1
を与えます。これらを ((ロ) の例-15) に代入し、時々刻々の物質粒子Qの位置を座標 (,) として灰色の点で示すと、[ 図 4-10 ] のようになります。
 物質粒子Qは 軸 に沿って等速度 で進みますが、この軸は回転軸の回りに 角速度Ω で回転するので、座標系Bの空間では、物質粒子Qの軌道は曲線になります。また同図には、原点から の距離にある点(青色の丸)の座標系Bの空間における軌道も示しました。この点は座標系Aの空間では静止した点ですが、座標系Bの空間では、円軌道上を等速度で動く点になります。
物質粒子C の運動
 [ 図 4-8 ] から、観察者Aが眺めた物質粒子Cの 位置の座標成分は、
  ,  ,            ((ロ) の例-15a )
となります。物質粒子Cの 速度と加速度の座標成分は、上記の ((ロ) の例-15a ) の時間 に関する1階および2階の導関数で与えられ、それぞれ
  ()/ = 0,   = 0,
  ()/ = −()/ = −      ((ロ) の例-15b )
   = 0,   = 0,
   = − = −          ((ロ) の例-15c )

となります。ここに および は、それぞれ、座標系Aの空間における 物質粒子Cの 速度成分 および 加速度成分 で、両者のあいだには
     
の関係があります。
 ((ロ) の例-15a )、((ロ) の例-15b )、((ロ) の例-15c ) の結果をまとめて示せば

◇ 観察者A が眺めたとき 
,  , 
= 0,   = 0,   = −           ( (ロ) の例-16 )
= 0,   = 0,   = −
となります。

 同じ物質粒子Cを観察者B が眺めたときの運動を求めるには、〔 表 4-8 〕の相対運動の式において、左辺の位置、速度、加速度の座標成分に上記の ((ロ) の例-16 ) を代入します。すると 観察者Bが眺めた物質粒子Cの 位置、速度、加速度の座標成分 について、次の結果が得られます。すなわち

◇ 観察者B が眺めたとき
cosΩ,  = − sinΩ,  = ( )−
= −Ω sinΩ,  = −Ω cosΩ,  = − ((ロ) の例-17 )
= −Ω 2 cosΩ,  = −Ω 2 sinΩ,  = −                                 
となります。ここに 、すなわち 展望台の床面の半径 です。

 観察者Bが眺めた 物質粒子C の速度 は、{ 回転軸の軸 に垂直な方向の速度 − } と { 鉛直下方を向いた速度 − } を加え合わせものです。また 物質粒子の加速度は、{ 回転軸の軸 に平行で原点の方向を向く加速度 −Ω 2 } と { 鉛直下方を向いた加速度 − } を加え合わせものです。これらの速度と加速度の 軸方向、軸方向、軸方向の座標成分は、((ロ) の例-17) に一致することが確かめられます。

 物質粒子C の時々刻々の位置、すなわち「軌道」を求めるためには、速度 と 加速度 がどんな時間の関数であるかを知る必要があります。この例では 物質粒子Cが [ 図 4-8 ] の D の位置から鉛直下方に落下する速度と加速度であり、地球の重力加速度の大きさを ( = 9.80 [m/s2] ) とすれば
  ,   = (1/2)2         ((ロ) の例-18)
となります。ただし 初期時刻=0 で = 0 としました。

 物質粒子C の位置の座標成分は、((ロ) の例-17 ) の1行目の式で与えられます。ただし
     = − = −= −
の関係を用い、初期時刻=0 で =0 であることを考慮すると
     = −()−(1/2)2
が得られます。したがって、物質粒子Cの位置の座標成分は
   cosΩ, = − sinΩ,  = −()−(1/2)2
                              ((ロ) の例-19)

となります。
 物質粒子Cが落下し始めてから地表面 = − に到達するまでに要する時間を とすれば
   =(21/2                ((ロ) の例-20)
となります。

 ここで座標軸 が1回転するのに要する時間;
    rot =2πΩ                    ((ロ) の例-21)
を導入し、((ロ) の例-19) を次のように書き直します:
   = cos {2π(rot) () }
   = −sin {2π(rot) () }    ((ロ) の例-22)
   = −1 + () {1− ()2 }
 ((ロ) の例-22) は、二つの無次元のパラメータ;
    rot および               ((ロ) の例-23)
を有しています。

 二つのパラメータ rot を指定して、時間の変数 に次々に値を与えてゆくと、物質粒子の位置座標;
  ( , ,
は空間に軌道を作り上げてゆきます。
◇ 一例として、パラメータの値を
   rot = 1/8、   =0.6
に選び、時間の変数に 0 から 1 までを4等分;
  = 0, 1/4,  2/4, 3/4, 1
します。
〔 図 4-11 〕  これらの時間変数を ((ロ) の例-22) に代入し、時々刻々の物質粒子Cの位置を 座標の ( ,, ) として灰色の点で示すと、[ 図 4-11 ] のようになります。
 座標系Aの空間では、物質粒子Cは 軸 と 線分OT とで作られる鉛直面≠ノおいて、D から G に向かって鉛直下方に落下します( [ 図 4-8 ] を参照 )。ところが座標系Bの空間でこの運動を眺めると、物質粒子Cは鉛直方向だけでなく水平方向にも移動して、図に示すような曲線の軌道を描くことが分かります。
 このように、観察者Aは 物質粒子Q を水平方向に直線的に進む運動として観察しますが、観察者Bは [ 図 4-10 ] に示すような曲線的な軌道に沿った運動として観察します。同様に、観察者Aは 物質粒子C を鉛直下方に直線的に落下する運動として観察しますが、観察者Bは [ 図 4-11 ] に示すような曲線的な軌道に沿った運動として観察します。
 同じ物質粒子が異なった運動として観察されるのは、観察者Bがいる座標系Bが 座標系Aの空間で 回転運動をしているからです。
〇 似た例として、遊園地にあるメリーゴーランドの回転する床面上に座っている観察者を挙げることができます。この観察者が眺めた周囲の諸物体の運動は、回転運動と組み合わさった運動となっています。
〇 メリーゴーランドの床面の回転と比べると、[ 図 4-8 ] に示した展望台の床面は実際には非常にゆっくりと回転します。採用した パラメータ rotrot の値は、実際に比べて相当に大きな値に選んであります。そのため [ 図 4-10 ] や [ 図 4-11 ] に示した曲線は、かなり誇張したものになっています。実際には、これらの曲線はきわめて直線に近いものであると予想されます。

 次ページの《 改定 第4章 ―第4ステップ― 》では、二つの座標系 −座標系Aと座標系B− のうち、一方の座標系 −座標系A− の空間における物体の運動が ニュートンの運動の三法則( 《 改定 第2章―第1ステップ ― 》 )に従うものと仮定します。このとき 他方の座標系 −座標系B− の空間では、物体の運動がどのように記述されるかという問題を考察します。
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