[ 改定 第2章 ]で述べたように、物体の運動は「ニュートンの運動の三法則」に従います(
を参照 )。ところが前ページに示したように、相対運動では、同じ物体の運動が{ 座標系Aの空間 }と{ 座標系Bの空間 }では異なった運動として観察されます(
)。それでは、どちらの運動もニュートンの運動の三法則に従うのでしょうか?
この答えを見出すために、ニュートンの運動の三法則を振り返ってみます。
運動の三法則は「運動の第1法則」、「運動の第2法則」、「運動の第3法則」の三つから成ります(
)。
◇ 運動の第1法則 は、次のように述べられます:
『 力を受けないとき、物体はその速度を一定に保ちつづける。』
この法則は、力を受けなければ物体はその「慣性」を保持する という意味から、「慣性の法則」とも呼ばれます。
◇ 運動の第2法則 は、次のように述べられます:
『 物体の質量と加速度の積は、物体が受ける力に等しい。』
この法則は、力の作用を受けた物体の運動を記述する方程式 として用いられるので、「運動方程式」とも呼ばれます。
◇ 運動の第3法則 は次のように述べられます:
『 物体1 が 物体2 に力を及ぼすとき、物体1 は 物体2 から大きさが等しく逆向きの力を受ける。』
この法則は、作用と反作用は対になって起こるという意味から、「作用・反作用の法則」とも呼ばれます。
物体の運動を数量的に表すために、物体に固定して「座標系」を設定し、物体の運動を ベクトル あるいは 座標成分 を用いて表しました(
を参照 )。上述した運動の三法則については、座標系を設定して、物体の位置、速度、加速度 および 物体に作用する力 を ベクトル あるいは 座標成分 を用いて表さなければなりません。
物体の運動が 運動の三法則 に従う場合には、それは一番目の運動の第1法則( 慣性の法則 )を満たすことが必要です。そのとき 空間に設定した 座標系のことを「慣性系」といい、また、座標系の空間を「慣性系の空間」といいます。
相対運動における{ 座標系Aの空間 }と{ 座標系Bの空間 }は、ともに 慣性系の空間 なのでしょうか? この問題を次に検討します。
〇 [ 改定 第3章 ]では、無限小の大きさの「物質粒子」という概念を導入し、物体の内部領域 (
境界面も含む ) が物質粒子で満たされているという連続体モデル≠フ概略を説明しました。上述した運動の三法則は、物体≠物質粒子≠ノ置き換えた一般的な法則の形で述べることができます。このとき物体の位置は、物質粒子の分布状態から算定される「質量中心」の位置と定められます(
を参照 )。
二つの座標系
−座標系Aと座標系B− における相対運動の式は、ベクトル あるいは 座標成分 を用いて表されました(
を参照 )。初めに ベクトルで表した相対運動の式を用いて、{ 座標系Aの空間における運動方程式 }と{ 座標系Bの空間における運動方程式 }を比較・検討します。
◇ 座標系Aと座標系Bのうち、座標系A は 慣性系であるとしましょう。すなわち座標系Aは慣性系であり、その空間では物体の運動は ニュートンの運動の三法則 に正確に従うものと仮定します。これらの法則は、次のように述べられます:
・ 物体に外力が作用しないときは、物体は 運動の第1法則 の慣性の法則に従い、その速度は一定に保たれます。すなわち
物体が力を受けないとき
vA = { 一定 }( 座標系Aの空間における慣性の法則;ベクトル表示 )
〈 式 4-4 〉
となります(
の〈 式 2-1 〉 )。ここに
vA は 物体の速度で、
xA軸方向、
yA軸方向、
zA軸方向 の成分を用いて次のように表されます。すなわち
vA =
vAxiA+
vAyjA+
vAzkA
・ 物体に外力が作用するときは、物体は 運動の第2法則 の運動方程式に従います。すなわち
maA =
F ( 座標系Aの空間における運動方程式;ベクトル表示 )
< 式 4-5 >
となります(
の < 式 2-3a > )。ここに
m は 物体の質量、
aA と
F は 物体の加速度 と 物体に作用する力 で、その
xA軸方向、
yA軸方向、
zA軸方向 の成分を用いて次のように表されます。すなわち
aA =
aAxiA+
aAyjA+
aAzkA,
F =
FxiA+
FyjA+
FzkA
ここに
Fx、
Fy、
Fz は、物体に作用する外力の
xA軸方向、
yA軸方向、
zA軸方向 の座標成分です。
・ 運動の第3法則の作用・反作用の法則によれば、物体1と物体2という二つの物体のあいだに
F21 = −
F12( 座標系Aの空間における作用・反作用の法則;ベクトル表示 )
〈 式 4-6 >
という関係が成立します(
の〈 式 2-4 〉 )。ここに、物体1が物体2に及ぼす力を
F12 とし、物体2が物体1に及ぼす力を
F21 としました。
◇ 加速度に関する相対運動の式は 加速度
aA と
aB の関係を示す式で、ベクトルを用いて表せば
aA =
A+
Σ×
rB+
Ω×(
Ω×
rB )+2
Ω×
vB+
aB < 式 4-3a >(再掲)
となります (
を参照 )。
< 式 4-3a > の両辺に物体の質量
m を乗じ、左辺に 運動方程式の < 式 4-5 > を代入すると
F =
m {
A+
Σ×
rB+
Ω×(
Ω×
rB)+2
Ω×
vB}+
maB
となります。右辺第1項の
m { } を左辺に移行し、左辺と右辺を入れ替えて示せば
maB = F + F (app) ( 座標系Bの空間における運動方程式;ベクトル表示 ) < 式 4-7 >
となります。ここに
F (app) = −m {A+Σ×rB+Ω×(Ω×rB)+2Ω×vB} ( 見かけの力 ) < 式 4-8 >
は、「見かけの力」と呼ばれる 力の次元 を有する量です。
〇 < 式 4-4 > 、< 式 4-5 >、< 式 4-6 >、< 式 4-7 >、< 式 4-8 > は、相対運動と見かけの力に関して重要な式であるので、式に番号を付けました。
〇 < 式 4-8 > の左辺の上付き添字 (app) は、英語の apparent を略したものです。
< 式 4-7 > は、左辺が物体の質量
m と座標系Bの空間における加速度
maB の積であり、右辺は力の単位を有する二つの量の
F と
F (app) の和になっています。この式 は 「座標系Aの空間における運動方程式」の < 式 4-5 > と同形の方程式です。ゆえに 、< 式 4-7 > を「座標系Bの空間における運動方程式」と呼ぶことにします。
しかしながら < 式 4-7 > の右辺には、物体には 実際の力
FA だけでなく、新たに見かけの力の
F (app) が現れます。したがって座標系Bは、一般には慣性系ではなくて「非慣性系」になります。
見かけの力
F (app) は、座標系Aの空間において座標系Bが行う加速度運動に伴って生じます(
を参照 )。加速度は四つありますが、それぞれに対応して、加速度と反対向きの次の(1)、(2)、(3)、(4) の四つの見かけの力が存在します。このうち (3) と (4) は、「遠心力」および「コリオリの力」と呼ばれています:
(1)座標系Bの原点の加速度に伴う力;−mA、 (2)座標系Bの原点のまわりの角加速度に伴う力;−m(Σ×rB)
(3)遠心力;−m(Ω×(Ω×rB))、 (4)コリオリの力;−m{2Ω×vB}
これら四つの加速度(
ピンク色の矢印付きのベクトル )と 四つの見かけの力 (
赤色の矢印付きのベクトル ) を
[ 図 4-12 ] に示します。
〇 座標系Bの 原点O
B が描く軌道が曲線軌道である場合には、O
B の加速度
A は 軌道の 接線方向を向く加速度
A‖ と 接線に直角な方向を向く加速度
A⊥ の和として表されます(
を参照 )。
〇 運動の三法則を物体≠ニいう言葉を用いて述べましたが、同じ文を物質粒子≠ニいう言葉に置き換えて述べることもできます。
座標系Aの空間における運動方程式 < 式 4-5 > と 座標系Bの空間における運動方程式 < 式 4-7 > は、ベクトルを用いて表しました。この運動方程式を 座標成分で表した運動方程式 に書き換えることができます。その結果は 次のようになります:
◇ < 式 4-5 > の両辺と 座標系Aの基本ベクトル基本ベクトル
iA、
jA、
kA との内積をとり、左辺と右辺を等値します。基本ベクトルの規格・直交性 (
《 単位ベクトルと基本ベクトル 》) を用いると
maAx =
Fx,
maAy =
Fy,
maAz =
Fz
( 座標系Aの空間における運動方程式;座標表示 )
となります。物体に作用する力は、慣性系においては、遠隔的な力 と 接触的な力 の和になります(
を参照 )。
ここで 加速度の座標成分 と 物体に作用する力;
aAx、
aAy、
aAz と
Fx、
Fy、
Fz
を、それぞれ3行1列の行列≠ナ表します。すると
〔 表 4-9(イ) 〕 に示すような
「 座標系Aの空間における運動方程式;座標表示 」
になります。加速度 と 物体に作用する力 は、ともに 座標系Aの座標成分で表されています。これに 式の番号 < 式 4-9(イ) > を与えます。
◇ < 式 4-7 > の両辺と 座標系Bの基本ベクトル基本ベクトル
iB、
jB、
kB との内積をとり、左辺と右辺を等値します。基本ベクトルの規格・直交性 (
《 単位ベクトルと基本ベクトル 》 ) と 変換行列とその転置行列(
の〔 表 4-1 〕 )を用いると
maBx=
I11Fx+
I21Fy+
I31Fz+
I11(
F (app))
x+
I21(
F (app))
y+
I31(
F (app))
z
maBy=
I12Fx+
I22Fy+
I32Fz+
I12(
F (app))
x+
I22(
F (app))
y+
I32(
F (app))
z
maBz=
I13Fx+
I23Fy+
I33Fz+
I31(
F (app))
x+
I23(
F (app))
y+
I33(
F (app))
z
( 座標系Bの空間における運動方程式;座標表示 )
となります。この式の右辺の1番目の式には 変換行列の転置行列;
t[
I ]
の1行目の行列成分が、2番目の式には 転置行列の2行目の行列成分が、3番目の式には 転置行列の3行目の行列成分が現れます。
なお
F (app) の
xA軸、
yA軸、
zA軸方向 の座標成分を、
(F (app))x、(F (app))y、(F (app))z と表しました。
ここで 加速度の座標成分、物体に作用する力、物体に作用する見かけの力;
aBx,
aBy,
aBz,
Fx,
Fy,
Fz, (
F (app))
x, (
F (app))
y, (
F (app))
z
を、それぞれ3行1列の行列≠ナ表し、これと3行3列の変換行列の転置行列
t[
I ] ≠組み合わせた行列形式で表せば、
〔 表 4-9(ロ)〕 に示すような
「座標系Bの空間における運動方程式;座標表示」 になります。これに式の番号 < 式 4-9(ロ) > を与えます。
以上の < 式 4-9(イ) > および < 式 4-9(ロ) > が、座標系Aの空間における運動方程式 と 座標系Bの空間における運動方程式 を座標成分で表したものです。座標系Aは慣性系であり、座標系Bは非慣性系です。どちらの座標系においても、物体の位置、速度、加速度の座標成分のあいだには、次の関係が成立します:
aAx=dvAx/dt, aAy=dvAy/dt, aAz = dvAz/dt,
vAx=dxA/dt, vAy=dyA/dt, vAz = dzA/dt,
および
aBx=dvBx/dt, aBy=dvBy/dt, aBz = dvAz/dt,
vBx=dxB/dt, vBy=dyB/dt, vBz = dzB/dt,
座標系Aは慣性系と定めたので、その空間では 運動の第2法則 (
運動方程式 ) とともに、運動の第一法則 (
慣性の法則 ) と 運動の第3法則 (
作用・反作用の法則 ) も満足されます。一方 座標系Bは非慣性系なので、その空間では 運動の第一法則 と 運動の第3法則 が満足されません。
座標系Aと座標系Bがあり、座標系Aが慣性系であるとします。座標系Aの空間において、もう一方の座標系Bが回転運動をしたり 原点 O
B が加速度運動を行う場合には、座標系Bは非慣性系になります。しかし 座標系Bが 回転運動 や 原点の加速度運動 をしなければ、座標系B も慣性系になります。
座標系Aと座標系Bがともに慣性系であるとき、(座標系Aの空間における物体の運動) と (座標系Bの空間における物体の運動) とは、相互にどのように変換されるのでしょうか? 相対運動の式を用いて、このことを調べてみます。
相対運動の位置、速度、加速度に関する式は、ベクトルで表すと < 式 4-1a >、< 式 4-2a >、< 式 4-3a > となります(
)。座標系Bは (
座標系Aとともに) 慣性系なので、座標系の 回転運動 や 原点の加速度運動 は起こりません。ゆえに 回転の角速度
Ω と角加速度
Σ は 0 となり、また 原点 O
B の並進加速度
A も 0 となります。こうして < 式 4-1a >、< 式 4-2a >、< 式 4-3a > は
rA = R + rB (物体の位置に関する関係式;ベクトル表示)
vA = V + vB (物体の速度に関する関係式;ベクトル表示)
aA = aB (物体の加速度に関する関係式;ベクトル表示)
となります。
回転運動が起こらない (
Ω=0、Σ=0 ) ので、座標系Bの座標軸の向きは時間とともに変化せず、いつも同じ向きを保持します。また並進加速度がない (
A=0 ) ので、座標系Bの原点の速度
V は時間とともに変化せず一定に保たれます。
関係式
V =
dR/
dt の両辺を 時間
t で積分すれば、
V は 時間的に一定なので
R = Vt + R0
(位置ベクトル R の時間的な変化)
となります。ここに
R0 は、
R の 時刻
t=0 における位置ベクトルです。
[ 図 4-13(イ) ] に、(座標系Aの空間)において 座標系Bの原点 O
B の位置ベクトル
R と
R0 および 速度ベクトル
V を示します。原点 O
B は
V に沿った方向に直線軌道(
茶色の破線) を描きます。
◇ 原点 OB は V の方向に一定の速さで進みますが、その間に座標系Bの座標軸の向きは変化せず、いつも同じ方向に保たれます。
[ 図 4-13(イ) ] に対応する物体の速度の関係 (
vA と
vB のあいだの関係) は
vA =
V +
vB
となります。この式の右辺の
V を左辺に移行し、左辺と右辺を入れ替えて示せば
vB = −
V +
vA
となります。1番目の式に (イ)、2番目の式に (ロ) の記号を付け、両式を並べて
vA = V + vB (ガリレオ変換 (イ) )
vB = −V + vA (ガリレオ変換 (ロ))
と呼ぶことにします。
(イ) の式で 右辺の
vB を与えれば 左辺の
vA が得られ、(ロ) の式で 右辺の
vA を与えれば 左辺の
vB が得られます。すなわち (イ) と (ロ) の式 を通して
『 座標系Aと座標系Bが慣性系のとき、物体の速度
vA と
vB は相互に変換される 』
となります。この変換のことを「ガリレオ変換」といいます。
ベクトルで表した上述の 物体の位置、速度、加速度 の関係式 を 座標成分で表した関係式 に書き換えるために、前々ページに示した < 式 4-1b > (
[ 表 4-2 ])、< 式 4-2b >(
[ 表 4-3 ])、< 式 4-3b >(
[ 表 4-3b ]) (
を用います。
初めに、これらの式において 角速度 と 角加速度 および 原点の並進加速度 の座標成分 を全てゼロと置き、続いて、(物体の位置、速度、加速度に関する関係式;ベクトル表示) に現れるベクトルの
R、
V、
rA、
rB、
vAx、
vBx、
aAz、
aBz と 座標系Aの基本ベクトル との内積を作ります。得られた結果を3行1列≠フ行列の形に表すと、
[ 表 4-10(イ) ]、
[ 表 4-11(イ) ]、
[ 表 4-12(イ) ] に示すようになります:
◇ [ 表 4-10(イ) 〕は、座標成分で表した 物体の位置に関する関係式です。
ここに (
Rx)
0、(
Ry)
0、(
Rz)
0 は、それぞれ、
xB 軸方向、
yB 軸方向、
zB 軸方向 の 位置ベクトル
R の時刻
t=0 における座標成分です。
右辺第1項の
Vx、
Vy、
Vz は、時間とともに変化しない一定のベクトルであり、[ 図 4-13(イ) 〕に示した速度ベクトル
V を座標成分で表したものになっています。
右辺第2項の [
I ] は 座標系Aと座標系Bの間の変換行列で、3行3列≠フ行列です。
◇ [ 表 4-11(イ) 〕は、座標成分で表した 物体の速度に関する関係式です。
右辺第1項の
Vx、
Vy、
Vz は、〔 表 4-10(イ) 〕の場合と同じく、時間とともに変化しない一定のベクトルです。
◇ [ 表 4-12(イ) 〕は、座標成分で表した 物体の加速度に関する関係式です。
以上の [ 表 4-10(イ) ]、[ 表 4-11(イ) ]、[ 表 4-12(イ) 〕は、物体の位置、速度、加速度に関する関係式を
{ 座標系Aの空間において ベクトル表示から 座標表示 に換えた式 }
になります。
続いて、[ 表 4-10(イ) ]、[ 表 4-11(イ) ]、[ 表 4-12(イ) 〕に次のような操作を行います:
・ [ 表 4-10(イ) ] で Rx、Ry、Rz を、[ 表 4-11(イ) ] では Vx、Vy、Vz を左辺に移行します。
・ [ 表 4-11(イ) ] 、[ 表 4-12(イ) ]、[ 表 4-13(イ) ] の両辺に 左側から変換行列の転置行列 t[ I ] を乗じます。
こうして得られる式を、(イ)を(ロ)に付け替えて、[ 表 4-11(ロ) ] 、[ 表 4-12(ロ) ]、[ 表 4-13(ロ) ] と呼ぶことにします。これらの関係式は
{ 座標系Bの空間において、ベクトル表示 から 座標表示 に換えた式 }
です(
たたし、それらの式をここでは表示しません)。
座標表示した [ 表 4-10((イ) ]、[ 表 4-11((イ) ]、[ 表 4-12((イ) 〕は ベクトルで表した(ガリレオ変換 ((イ))に対応したものであり、座標表示した [ 表 4-10(ロ) ]、[ 表 4-11(ロ) ]、[ 表 4-12(ロ) 〕は ベクトルで表した(ガリレオ変換 (ロ))に対応したものになっています。
ここで 見かけの力
および それを受けた物体の運動に関して、具体的な例をいくつか挙げてみます。
座標系A;(OAxAyAzA)と 座標系B(OBxByBzB)があり、座標系A が慣性系であるとします。座標系Aの空間で座標系Bが 加速度運動(原点OB の加速度運動 および 座標軸Bの回転運動)をすると、物体には見かけの力が作用します。
(例1)地表面を乗物(
電車、自動車など)が直線に沿って等速度で進み、回転をしないとき
◇ 乗物が電車のとき、電車は直線的に伸びるレールに沿って等速度で進み、車体は回転運動をしません。
水平な地表面において、車道を挟んだ歩道の上に 座標系Aの 原点O
A を、電車の車体に固定して床面上に 座標系Bの 原点O
B をとり、座標軸の向きを
xA軸 ‖
xB軸、
yA軸 ‖
yB軸、
zA軸 ‖
zB軸
と設定します(
を参照)。
電車の加速度は 0 なので 物体に作用する見かけの力 は現れず、座標系Bも慣性系になります。したがって、運動方程式の < 式 4-5 > と < 式 4-7 > は
maA =
F、
maB =
F ( (例1)における運動方程式 )
となり、同じ形の運動方程式になります。
◇ 座標系Aの空間と座標系Bの空間では、物体の加速度は同じですが、速度は電車の速度
V だけ異なり、両者はガリレオ変換(ガリレオ変換 (イ) )および(
ガリレオ変換 (ロ) )によって相互に変換されます。
(例2)地表面を乗物(
電車、自動車など)が直線に沿って等加速度で進み、回転をしないとき
◇ 電車の加速度 A の向きは xA軸 に沿った方向で、その大きさ |A| は一定です。電車は 並進の加速度運動 を行うので、物体に作用する見かけの力 は −mA となり、座標系Bは非慣性系になります。したがって、運動方程式の < 式 4-5 > と < 式 4-7 > は
maA = F、 maB = F −mA
( (例2)における運動方程式 )
となります。電車の速度 V と加速度 A は、[ 図 4-14 ] に示すようになります。[ 図 ] は鉛直上方から眺めたもので、速度と加速度は xA 軸の正方向を向く場合を示してあります。
◇ 見かけの力 −mA は 座標系Bの空間 において生じます。この見かけの力は、電車が正の方向に加速するときは電車の進行方向と逆向き≠ノ作用し、電車が負の方向に加速するときは電車の進行方向と同じ向き≠ノ作用します。
私たちが電車に乗っており、電車が動き出して加速するとき( 進行方向と )逆向きの力を受け、電車が減速し止まるとき(進行方向に)力を受けるという経験をします。
(例3)地表面を乗物(
電車、自動車など)が曲線軌道を描いて進むとき
◇ 電車のレール や 車道 が地表面上で曲線的な軌道をなしているとき、乗物はその軌道に沿って進みます。そのとき乗物に固定された 座標系Bの原点O
B も、その曲線軌道 に沿って進みます。
[ 図 4-15 ] に、その曲線軌道の一部 (
茶色の線 ) を示します。
◇ 原点O
B が軌道上の P点 に来たとき、その点の 速度 と 加速度 を調べてみます。
◇ 速度
V (
紫色のベクトル ) は、軌道の接線方向を向きます。加速度
A (
ピンク色のベクトル ) は二つのベクトルから成り、一つは軌道の接線方向を向く
A‖ と 接線に直角方向を向く
A⊥ = (
V2/
Rc)
e⊥ の和になります。すなわち
A =
A‖ +
A⊥
=
A‖ + (
V2/
Rc)
e⊥
ここに
V = |
V|で、
Rc は P点 における「曲率半径」であり、
e⊥ は軌道の接線に直角方向の単位ベクトルです。
曲線の曲がり具合は「曲率」と「曲率半径」という量で示され、これらを算定する方法を
《 曲率 と 曲率半径 》) で説明します。
◇ 乗物が原点O
Bの周りに回転しない場合には、質量
m の物体 に見かけの力
F1 (app);
F1 (app) = −
mA‖ −
m(
V2/
Rc)
e⊥ (乗物が原点OBの周りに回転しない場合)
を生じさせます。これらを [ 図 4-15 ] に (
赤色のベクトル ) で示します。
◇ 乗物が原点O
B の周りに 角加速度
Σ と 角速度
Ω で回転する場合には、これに追加して、さらに座標系Bの回転に伴なう見かけの力;
F2 (app) = −
m {
Σ×
rB+
Ω×(
Ω×
rB)+2
Ω×
vB }
(乗物が原点OBの周りに回転する場合)
が生じます。
◇ こうして運動方程式の < 式 4-5 > と < 式 4-7 > は
maA =
F、
maB =
F1 (app) +
F2 (app) ( (例3)における運動方程式 )
となります。
(例4)空中を乗物(
航空機、ロケットなど)が曲線軌道を描いて進み、回転を行うとき
◇ 航空機、ロケットなどの乗物 や 鳥など が空中を飛行するときは、それらに固定された 座標系Bの原点OB は 三次元空間で曲線軌道を描きます。このとき 座標系Bの座標軸 は一般には 原点OB の周りに回転します。座標系Bは非慣性系であり、見かけの力 および 運動方程式 は、上記の (例3)に示したものと同一の式で与えられます。
(例5)太陽の周りを地球が周回するとき、地球の表面付近の物体の運動
◇ 太陽系においては、太陽の周りをの8個の惑星;水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星;が周回しています。各々の惑星は、太陽を焦点とする楕円軌道に沿って回っている(「ケプラーの第一法則」) とすれば、観測データとかなり良く一致します( 《 参考資料 4-1 》 )。
◇ 太陽は静止した状態にあると仮定し、太陽の中心の位置を座標系の原点に、太陽の自転軸の方向を zA軸 に、太陽の赤道面にxA軸 と yA軸 をとって 直交座標系A;( OAxAyAzA ) を設定します。
◇ 各々の惑星の軌道面に垂直な軸は「公転軸」と呼ばれ、太陽の自転軸と公転軸のなす角は「軌道傾斜角」と呼ばれます。地球の軌道傾斜角はほぼ 0 に近いので、地球の公転面はほぼ太陽の赤道面に一致しています。
◇ 各々の惑星は、「自転軸」と呼ばれる軸の周りに自転をしています。惑星の自転軸と公転軸のなす角は「自転傾斜角」と呼ばれます。
太陽に近くを周回する水星、金星、火星とともに、地球は質量が小さい惑星です。地球はほぼ球形に近く、太陽の周りを 公転周期 365.24[日])で回ります。
[ 図 4-16 ] に、太陽の周りを自転・公転運動する地球のモデル図を、座標系Aと座標系B とともに示します。
図 は見やすくするために、地球の半径
R 地球 を 地球の公転運動の軌道面の半径
R 公転 に比べて非常に大きくして描いてあります。地球の中心 O
B が公転軌道面上を回るとき、自転軸と
zA軸 とがなす角、すなわち自転傾斜角
β は 23.4 ( °) に保たれます。
zA軸 から 角
β だけ傾いた地球の中心 O
Bを通る軸は、地球の自転軸です。この軸が地球の表面と交わる点は、北極点の N と 南極点の S であり、自転軸に垂直な平面は 地球の赤道面 になります。地球の自転軸の方向に
zB軸 をとり、原点を通り自転軸に直角の二つの方向に
xB軸 と
yB軸 をとって 直交座標系B;( O
BxByBzB ) を設定します。
地球表面上の任意の点の位置は、「経度」と「緯度」を用いて表されます。経度と緯度は、次のようにして定められます:
◇ 地球表面に一つの点 Q をとり、北極点N から Q を通り 南極点S に至る大円が地球の赤道と交わる点を F とします。また xB軸と地球表面の交点を E とし、yB軸 と地球表面の交点を C とします。
◇ 線分OBF と 線分OBQ のなす角を θ とし、線分OBE と 線分OBF のなす角を ф とすれば、それぞれ、緯度 および 経度になります。
地球が太陽の周りを自転・公転運動するとき、地球表面の物体に及ぼされる見かけの力を調べてみます (
詳しくは 《 太陽系惑星の公転・自転運動 》 を参照) 。見かけの力は二つから成り、一つは地球の公転運動に伴って及ぼされもの
F1(app) で、もう一つは地球の自転運動に伴って及ぼされるもの
F2(app) です。これらは次のように見積もられます。
◇ 地球の中心が 半径R公転 の円軌道に沿って等しい 速度V公転 で太陽の周りを回ると、向心加速度が生じて、地球表面にある 質量m の物体には 見かけの力 −m{ V公転2/R公転 } e⊥ が及ぼされます( 〔 図 4-15 〕を参照 )。この量と地球表面にある 質量m の物体が受ける重力の大きさ mg ( g は地球表面における重力加速度 ) との比をとり、観測データを用いて計算すると
|F1(app)/mg|= 6.0×10−3
となります。これは非常に小さく、見かけの力 F1(app) は無視できる大きさであることが分かります。
◇ 地球は自転軸のまわりに角速度 Ω で自転しているとき、地球表面の 質量m の物体には 見かけの力 F2 (app) = −m { Ω×(Ω×rB)+2Ω×vB } が及ぼされます。右辺の第1項は自転に伴って生じる「遠心力」であり、第2項は「コリオリの力」です。
◇ 遠心力の大きさは 緯度θ の地点で、|−m { Ω×(Ω×rB)}|= mΩR地球 cosθ となります。これと 物体が受ける重力の大きさ mg との比をとり、データを用いて計算すると
ΩR地球 cosθ/mg = 3.4×10−3 cosθ
となります。遠心力は、その地点の重力をわずか 0.3パーセント ほど減少させます。
◇ コリオリの力 −m (Ω×vB) は、地球の自転の角速度の大きさ |Ω|と 物体の速度の大きさ |vB| の積に比例します。自転の角速度の大きさは小さい ( 7.27×10-5[ 1/s]) ので、コリオリの力はかなり小さいものです。けれども 地球全体にわたる規模でとらえれば、上空の風や海の流れはコリオリの力を受けて、徐々にその向きが変化することが知られています。
上記の(例1)と(例2)では、乗物が等速度≠るいは等加速度≠ナ直線に沿って走行する場合をとり上げました。この例は、『電車が走行する郊外の風景』として 第1ステップ (
)で述べたものに相当します。そこでは、次のように二つの座標系が設定されました:
◇ 水平な地表面上の「歩道」に「座標系A;( O
AxAyAzA)」を、電車の「車体」に「座標系B;( O
BxByBzB)」を設置しました。座標軸の向きは〔 図 4-3 〕(
)に示した通りです。
電車は水平なレールの上を、
xA軸 の方向に直線的≠ノ進みます。電車の運動として「一定の速度で進む場合」と「一定の加速度で進む場合」の二通りをとり上げました。
『 座標系Aは慣性系である 』とします。電車が一定の速度で進む場合には、『 座標系Bは慣性系 』になります。電車が一定の加速度で進む場合には、『 座標系Bは非慣性系 』になります。
ここで、電車の車体の内部において物体が落下する運動をとり上げます。その運動は次のようです:
〇 電車の車体の床面に立つ乗客が xB=−L2 と yB=0 の位置で床の上に立ち、時刻 t = 0 で 手に持った物体を 床面から H2 の高さで静かに離します。物体は下方に向かって落下し、時刻 t = tfloor で床面に到達します。
この物体の運動を 座標系Bを用いて記述したとき、それは { 座標系Bの空間における運動 } になります。またこの運動を 座標系Aを用いて記述したとき、それは { 座標系Aの空間における運動 } になります。それぞれの運動は、{ 座標系Bの原点の位置で「観察者B」が眺めている運動 } および {座標系Aの原点の位置で「観察者A」が眺めている運動 } ということもできます。
初めに、電車が一定の速度で進む場合を計算します。この場合には 座標系Bは慣性系 になるので、座標系Aと座標系Bは
(ともに) 慣性系 になります。
まず 本ページの 運動方程式 < 式 4-9(ロ) > を用いて、座標系Bの空間における物体の加速度、速度、位置を算出します。続いて 前々ページに示した位置、速度、加速度に関する変換式;< 式 4-1b >、< 式 4-2b >、< 式 4-3b > (
)を用いて、物体の加速度、速度、位置 を (座標系Bの空間における) ものから (座標系Aの空間における) ものに変換します。計算の結果は次のようになります:
座標系Aと座標系Bが (ともに) 慣性系のとき
運動方程式 < 式 4-9(ロ) > の右辺の各量は、この例を適用すれば、以下のようになります:
◇ 変換行列の転置行列
t[
I ] は、「単位行列」です(
《 変換行列 と その例 》 を参照 )。
◇ 右辺第1項で 空気抵抗を小さいとして無視することにすれば、物体に作用する力は 地球の重力だけ になります。すなわち、
Fx=0、
Fy=0、
Fz=−
mg となります。
◇ 右辺第2項の 見かけの力 は、全て 0 です。
< 式 4-9(ロ) > の左辺と右辺を等値し、初期時刻
t=0 で物体が静止の状態であることを考慮すれば、(座標系Bの空間における) 物体の加速度、速度、位置は、時刻
t で
◇ aBx= 0, aBy= 0, aBz= −g (座標系Bの空間における物体の加速度)
◇ vBx= 0, vBy= 0, vBz= −gt (座標系Bの空間における物体の速度)
◇ xB= −L2, yB= 0, zB= −(1/2)gt2+H2 (座標系Bの空間における物体の位置)
となります。ここに
g は重力加速度の大きさで、
L2 と
H2 は時間とともに変わらない定数です。物体が床に衝突する時刻
tfloor は、上記の3番目の式で
zB=0 となる時刻の
tfloor = (2
H2/
g)
1/2 (物体が床面に衝突する時刻)
です。
物体の加速度、位置、速度の変換式 < 式 4-3b >、< 式 4-2b >、< 式 4-1b > の各量は、この例を適用すれば、以下のようになります:
◇ 変換行列の [ I ] は「単位行列」です。
◇ < 式 4-3b > では、回転の角加速度の座標成分を 0 とし、座標系Bの原点 OB の加速度の座標成分を全て 0 とします。
◇ < 式 4-2b > では、回転の角速度の座標成分を 0 とし、座標系Bの原点 OB の速度の座標成分について Vx= V0、Vy= 0、Vz= 0 とします。
ここに
V0 は、電車の進む速度の大きさで、時間的に変化しない一定の量です。
変換式 < 式 4-3b >、< 式 4-2b >、< 式 4-1b > において、右辺に上述の (座標系Bにおける) 物体の加速度、速度、位置の座標成分 を代入し、左辺と右辺 を等値すれば、(座標系Aの空間における) 物体の加速度、速度、位置 が得られて、以下のようになります:
◇ aAx= 0, aAy= 0, aAz= −g (座標系Aの空間における物体の加速度)
◇ vAx= V0, vAy= 0, vAz= −gt (座標系Aの空間における物体の速度)
◇ xA= V0t +L0−L2, yA= E, zA= −(1/2)gt2+H+H2
(座標系Aの空間における物体の位置)
ここに
E と
H は 時間とともに変わらない定数です。
電車が等速度で進行する場合には、このように 座標系Aと座標系Bが
(ともに) 慣性系になり、座標系Aの空間における物体の位置、速度、加速度 および 座標系Bの空間における物体の位置、速度、加速度が得られました。
ここで 定数の
L0、
L2、
H、
H2 のそれぞれに、次の長さ;
L0= 10[m],
L2= 5[m],
H= 1[m],
H2= 1.5[m]
を与えます。ここに
L0 は、初期時刻
t=0 における 原点O
B の
xA軸方向の位置 (
Rx ) を示します。
[ 図 4-17 ] に、電車の速度
V0 を
V0= 16.667[m/s](
=60[km/hour])
として、時刻 0≦
t≦
tfloor の範囲の各時刻における (座標系Bの空間における物体の位置)と(座標系Aの空間における物体の位置)を示します。ここで 重力加速度の大きさ
g を
g= 9.80[m/s
2]
とし、(座標系Bの空間における物体の位置)は
yB=0 に平行な
xB−
zB 平面の上に、(座標系Aの空間における物体の位置)は
yA=
E に平行な
xA−
zA 平面の上に描きました。
[ 図 4-17 ] では、(座標系Bの空間における物体の軌道) を上図に示し、(座標系Aの空間における物体の軌道)を下図に示してあります。各時刻における物体の位置を (
茶色の) 線で結びました。
・ 時間 tfloor を10等分し、△t= tfloort /10 としました。
・ (座標系Bの空間における物体の位置) は、時刻t =0、t = 5△t、t = 10△t の3点を示しました。物体は床面から高さ H2 の位置を離れ t=tfloor で床面に到達しますが、その軌道は鉛直下方に真直ぐな直線≠ノなります。
・ (座標系Aの空間における物体の位置) は、時刻t =0、t = 2△t、t = 4△t、t = 6△t、t = 8△t、t = 10△t の6点を示しました。物体は t =0 から t =0 に至る間に、上に凸の放物線≠描きます。
次に、電車が一定の加速度で進む場合を計算します。計算の方法は、まず 運動方程式 < 式 4-9(イ) > を用いて (座標系Aの空間における物体の加速度、速度、位置) を算出し、続いて 変換式 < 式 4-1b>、< 式 4-2b>、< 式 4-3b> を用いて (座標系Bの空間における 物体の加速度、速度、位置) を求めます。計算の結果は次のようになります:
座標系Aが慣性系 で 座標系Bが非慣性系 のとき
運動方程式< 式 4-9(イ) >の右辺の各量は、この例を適用すれば、以下のようになります:
◇ 変換行列の転置行列
t[
I ] は、「単位行列」です(
《 変換行列 と その例 》 を参照 )。
◇ 右辺第1項で 空気抵抗を小さいとして無視することにすれば、
Fx=0,
Fy=0,
Fz=−
mg となります。
◇ < 式 4-9(イ) > の 左辺と右辺 を等値すれば、(座標系Aの空間における 物体の加速度、速度、位置) は
aAx= 0, aAy= 0, aAz= −g (座標系Aの空間における物体の加速度)
vAx= V0, vAy= 0, vAz= −gt (座標系Aの空間における物体の速度)
xA= V0t+L0−L2, yA= E, zA= −(1/2)gt2+H+H2
(座標系Aの空間における物体の位置)
となります。
これらの(座標系Aの空間における 物体の加速度、位置、速度)は、上述した (座標系Aと座標系Bは
(ともに) 慣性系) において得られた(座標系Aの空間における 物体の加速度、位置、速度)と同一になります。
物体の加速度、位置、速度の変換式 < 式 4-3b >、< 式 4-2b >、< 式 4-1b > の各量は、この例を適用すれば、以下のようになります:
◇ < 式 4-3b > では、回転の角加速度の座標成分を 0 とし、座標系Bの原点 OB の加速度の座標成分について Ax= A0、Ay= 0、Az= 0 とします。
◇ < 式 4-2b > では、回転の角速度の座標成分を 0 とし、座標系Bの原点 OB の速度の座標成分について Vx =V0+A0t、Vy=0、Vz=0 とします。
◇ < 式 4-1b > では、Rx = V0t+(1/2)A0t2、Ry= E、Rz= H とします。
ここに
A0 は、電車の進む加速度の大きさで、時間的に変化しない一定の量です。
変換式 < 式 4-3b >、< 式 4-2b >、< 式 4-1b > において、右辺に上述の (座標系Aにおける物体の加速度、速度、位置の座標成分 を代入し、左辺と右辺 を等値すれば、(座標系Bの空間における 物体の加速度、速度、位置) が得られて、以下のようになります:
◇ aBx= −A0, aBy=0, aBz=−g (座標系Aの空間における物体の加速度)
◇ vBx= −A0t, vBy= 0, vBz=−gt (座標系Aの空間における物体の速度)
◇ xB= −(1/2)A0t2−L2, yB= 0, zB=−(1/2)gt2+H2
(座標系Bの空間における物体の位置)
[ 図 4-18 ] に、電車の加速度
A0 に
A0= 8[m/s
2]
として、時刻 0≦
t≦
tfloor の範囲の各時刻における (座標系Bの空間における物体の位置)と(座標系Aの空間における物体の位置)を示します。ここで (座標系Bの空間における物体の位置)は
yB=0 に平行な
xB−
zB 平面の上に、また (座標系Aの空間における物体の位置)を
yA=
E に平行な
xA−
zA 平面の上に示します。
[ 図 4-18 ] では、(座標系Bの空間における物体の軌道) を上図に示し、(座標系Aの空間における物体の軌道)を下図に示してあります。各時刻における物体の位置を (
茶色の) 線で結びました。
・ 時刻t=0 で、物体は床面上方の高さ H2 の位置で手から離れます。そのとき電車の速度の大きさは V0 なので、(座標系Aの空間)では、物体は初速度 V0 でもって水平方向(xA軸の方向)に投げ出されたことになります。物体が飛行する t=0 から tfloor までの間は、物体は車体と接触しないので、その運動は [ 図 4-14 ] の下図に示した上に凸の放物線≠ニ同一になります。
・ 時刻 0≦t≦tfloor の間に、電車は加速度A0 (A0 >0) で xA軸の方向 に進みます。その結果、物体が床面に落下した位置は 座標系Bの 原点OB から負の方向にずれた≠烽フになります。したがって物体の軌道は、(座標系Bの空間)では、[ 図 4-15 ] の上図に示すように、鉛直方向から後方に傾いたものになります。
・ 落下する物体の軌道が傾くのは、電車が 加速度運動 をするからです。この例では電車は進行方向に正の加速度で進みますが、(座標系Bの空間)では、物体には進行方向と逆向きの見かけの力≠ェ作用すると考えるのです。
ニュートン力学は、運動の三法則 −運動の第1法則、運動の第2法則、運動の第3法則− を組み合わせてその 力学の体系 が作られています。したがって運動の三法則は、ニュートン力学を成立させる最も重要で基本的な法則です。
私たちが住む地球の表面付近で起きる現象の多くは、ニュートン力学によって十分に良い精度で説明されます。これはニュートン力学の有用性を示すとともに、運動の三法則の正当性が示唆されます。しかしながら、以下に述べる重要な問題が浮かび上がってきます:
〇 私たちが電車や自動車などの乗物を利用するとき、乗物が急に発進したり(または)急に減速したりすると、後ろの方向(または)前の方向に力を受けるように感じます。この力は、このページで説明した見かけの力≠ナす。
〇 このような見かけの力が生じる理由を説明するために、まず 地球表面に固定した座標系(座標系Aとする)は慣性系であるとして、その座標系では運動の三法則が成立するものと仮定します。これに対して 乗物に固定して設置された座標系(座標系Bとする)は、地表面に対して一般には加速度運動を行うので非慣性系であり、そのような系では運動の三法則が成立せず、見かけの力が生じます。
〇 地上を走行する自動車や上空を飛行する航空機などが慣性系でなく非慣性系であることは、特に不自然なこととは思えません。何故なら 運転士や機長は乗物を自由に操縦できるので、乗物に設置した系(座標系) が加速度運動をする原因について 私たちは良く理解できるからです。
それでは、地球という系が慣性系である≠ニ仮定する根拠は何でしょうか?
〇 地球は球形の物体であり、地球の中心を通る軸の周りに自転するとともに、地球の全体が太陽の周りをほぼ円形の軌道を描いて運動しています。このような地球の自転運動と公転運動は、明らかに加速度運動なので、地球という系は正確には慣性系ではありません。
〇 しかし 地球の自転・公転の加速度運動は、その大きさを見積もると、非常に小さいことが分かります。したがって、太陽系が宇宙空間において静止した状態≠ナあると考えれば、地球という系は近似的に慣性系である≠ニ判断することができます。
それでは、太陽系が慣性系である≠ニ仮定する根拠は何でしょうか?
太陽系は 銀河系のなかに存在する 惑星系の一つであって、それは非常にゆっくり銀河系の内部を運動していることが知られています。太陽系そのものも宇宙空間で加速度を行うので、やはり太陽系も近似的に慣性系である≠ニ判断する必要があります。さらに我が太陽系が属する銀河系は、膨大な数の銀河系の一つに過ぎません。我が太陽系が属する銀河系は宇宙空間で加速度運動を行っているので、その銀河系が正確に慣性系であると断定することはできません。
慣性系の存在は ニュートン力学を成立させるための基本的な仮定なのですが、慣性系は宇宙の何処に存在するのか≠ニいった根本的な問題が残されます。その問題をニュートン力学の範囲で解決することは困難で、相対性理論などもっと一般的な力学体系を用いて説明することが必要になります。
≪ 理科年表 ≫ 平成6年度、p86-p87, 東京天文台編, 1994.