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《 改定 第5章 ―第1ステップ― 》
 第1ステップでは、物体の角運動量 および 力学的エネルギーのうち、物体の角運動量 と その時間的な変化について述べます。

初めに 簡単な例を用いて物体の回転運動を変化させる量である「力のモーメント」という力学量を導きます。続いて、物体に力のモーメントが作用すると 物体の「角運動量」という力学量が変化することを示します。
物体の角運動量
 物体には大きさが≠ェあるので、物体の力学量を求めるには、物体の内部構造 を考慮する必要があります。[ 改定第2章] ニュートンの運動の三法則 では、物体の内部が微小な粒子で満たされていると考える「粒子系のモデル」を導入しました (《 改定第2章 −第2ステップ− 》) 。
 物体の角運動量は、物体の内部にあるすべての 粒子の角運動量を加え合わせたものです。物体内部の 粒子i の位置ベクトルを とし、粒子i の 運動量を とすれば、二つのベクトルの外積;
      ×                (粒子の角運動量)
は 粒子i の角運動量 になります。粒子iの質量を とし 粒子iの速度ベクトル を とすれば、 と表されるので、粒子の角運動量は {× } と表すこともできます。
 (粒子i の角運動量)を 物体内部のすべての粒子について加え合わせれば、物体の角運動量 が得られます。ゆえに 物体の角運動量 を と表記すれば
  (× )             (物体の角運動量)
となります。ここに右辺の ( ) は、( ) の中の量を物体内部のすべての粒子iについて加え合わせることを意味します******。
物体の角運動量の時間的な変化
 上記の(物体の角運動量)の両辺を 時間 で微分すると
   {() × × ()}
                      (単位時間における物体の角運動量の変化量 a)
となります。右辺において、 であり、また  であるので、上式は
      ( × × )
となり、さらに × ( × ) = 0 なので
    × )   (単位時間における物体の角運動量の変化量 b)
となります。ここに は 粒子iに作用する力 です。この式の右辺の × は、粒子i に作用する 力のモーメント( moment of force ) と呼ばれます。

 粒子iに作用する力 は、物体の外部から及ぼされる (ext) と 物体内部の他の粒子から及ぼされる力 (int) の和になります。後者の力は、(int)ij (ただし、ii=0 とします) と表されます。これを(単位時間における物体の角運動量の変化量 b)に代入すれば
   { × (ext)} + { × ji
                      (単位時間における物体の角運動量の変化量 c)
となります。ここに ji は、粒子j から 粒子i に及ぼす力です。この式の右辺の第2項は、内力がある条件を満足するときには、以下に示すように ゼロ になります:
◇ (単位時間における物体の角運動量の変化量 c)の右辺の第2項は、i と j を入れ替えても式は同じになります。すなわち
   右辺の第2項 = { × ji}= { × ij}
となります。ゆえに
   右辺の第2項 = (1/2) [ { × ji}+ { × ij} ]
          = (1/2) [ { × ji}− { × ji} ]
          = (1/2) [ { × ji}− { × ij} ]
          = (1/2) [() × ji]
となります。ここで 作用・反作用の法則 ij = −ji を用い、また i と j の入れ替えを適宜に行いました。
◇ 上記の最後の式において、() は 粒子i と 粒子j を結ぶ直線に平行なベクトルです。一方、ji は粒子j から 粒子i に及ぼされる力です。もし ji が () に平行、すなわち ji ‖ () であるなら、ベクトルの外積の定義から、上記の右辺第2項はゼロになります。 
〔 図 5-1 〕; 物体内部の二つの粒子が及ぼし合う力  こうして (単位時間における物体の角運動量の変化量 c)の右辺の第2項がゼロになることが確かめられたので、物体の角運動量の時間変化を表す式は
  { ×(ext)}
 (単位時間における物体の角運動量の変化量)
となります。

 物体内部の 粒子j と 粒子i が及ぼし合う力に関する条件;
     ji ‖ ()
を文章で述べると
『 物体内部の二つの粒子は、二つの粒子を結ぶ直線の方向に力を及ぼし合う 』( 注 5-1 )
となります。これを 〔 図 5-1 〕 に示します。図では、力 ji および ji を引力≠ニして描いてあります。
 物体の角運動量を時間的に変化させるのは、物体に作用する「力のモーメント」です。上述の物体内部の二つの粒子が及ぼし合う力に関する条件が満足されるなら、物体に作用する外力のモーメントだけが寄与しており、物体に作用する内力のモーメントは寄与しないことが分かります。
( 注 5-1 )『 二つの粒子は、二つの粒子を結ぶ直線の方向に力を及ぼし合う 』というのは、作用・反作用の法則よりも狭い条件です。作用・反作用の法則では、二つの粒子は互いに平行な方向に力を及ぼし合うという条件;
        jiij
が満足されれば良く、二つの粒子が粒子を結ぶ直線の方向に力を及ぼし合うという条件;
        ji ‖ ()
が満足される必要がないからです。

簡単な例− 水平な床の上に置かれた物体の回転
 物体の回転の運動は、物体の各場所に作用する力とどのような関係があるのでしょうか? この問題を明らかにする手がかりとして、次に述べる簡単な例をとり上げます。

 地表面に固定された水平な床があり、その上に A点 と B点 で接している 質量 の物体が乗せられています。この物体には、外部から次のような力が作用しています:
◇ 物体の各場所には地球の重力が鉛直下方に作用し、それらを全て加え合わせると、物体の質量中心C の位置に作用する に等しくなります(《 改定 第3章 −第1ステップ− 》 を参照 )。ここに は、地球表面における重力加速度の大きさです。
◇ A点とB点を通して、床面から物体に 大きさが の抗力が鉛直上向きに作用します。
◇ 同じA点とB点を通して、物体から床面に 大きさが '' の力が鉛直下向きに作用します。作用・反作用の法則から
      ', '  ( 接点AとBにおける作用・反作用の法則 )
が成立します。
◇ この物体が静止の状態を保つためには、物体に作用する鉛直方向の力を加え合わせたもの( 鉛直方向の合力 ) がゼロであることが必要です。そうでないと、物体が鉛直方向に動き始めることになり、静止の状態が保たれなくなります。この条件を式で表すと
           ( 物体が静止の状態を保つための条件 )
となります。
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   この続きは次回にします。(揺海; 2018/10/30)
###  続き ###
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