前の第2ステップでは、粒子系のモデルに基づいて 物体の質量中心の運動方程式 を得ました。第3ステップでは、この運動方程式から ニュートンの運動の三法則と同形の「物体の質量中心に関する運動の三法則」を導き出します。これによって、物体が大きさを有することに伴なって生じる ニュートンの運動の三法則 に関する問題を解決し、運動の三法則の意味を明瞭にすることができます。
前ページの第2ステップでは、物体が粒子の集団から成ると考える粒子系のモデルに基づいて、物体の質量中心C の位置ベクトル
rC および 物体に作用する外力
F(ext) を導きました。二つのベクトル量は、物体の質量中心に関する運動方程式;
m (d 2rC/dt2 ) = F(ext) (物体の質量中心の運動方程式)〈 式 2-5 〉(再掲)
で結ばれます。ここに
m = Σ
i mi は 物体の質量で、時間
t が経過しても一定の量に保たれます(
)。
物体の質量中心C は空間における一つの点≠表します。ゆえに 位置ベクトル
rC の終点 は時間の経過とともに (
一般に ) 曲線の軌道を描き、それの時間に関する1階と2階の微分は 質量中心の 速度ベクトル
vC と 加速度ベクトル
aC を与えます。
運動方程式〈 式 2-5 〉から、次の三つの事柄が得られます。一番目は 物体が外部から力を受けない孤立した状態にある場合で、物体の質量中心の速度
vC は時間が経過しても一定の量に保たれます。二番目は物体が外部から力
F(ext) を受けている場合で、物体の質量中心 は 運動方程式 < 式 2-5 > に従って運動します。三番目は 二つの物体が力を及ぼし合う場合で、互いに及ぼし合う力は作用・反作用の法則に従います。
これら三つの場合をまとめて示すと、ニュートンの運動の三法則と同形の方程式となります、すなわち
vC = { 一定 } ( 物体が外力を受けないとき ) …(運動の第1法則) < 式 2-1b >
mi (d 2rC/dt2 ) = FC(ext) …(運動の第2法則)< 式 2-2b >
FBA(ext) = −FAB(ext) …(運動の第3法則) < 式 2-3b >
ここに
FBA(ext) は 物体B が 物体A に及ぼす力であり、
FAB(ext) は 物体A が 物体B に及ぼす力です。
ここに示した運動の三法則 は ニュートンの運動の三法則 と同形なので、式の番号に記号の b を付けて表しました。これを
物体の質量中心に関する運動の三法則
と呼ぶことにします。
◇ 物体の質量中心に関する運動の第3法則 < 式 2-3b > が成立することは、前ページに示した粒子に関する運動の第3法則;
Fji = −Fij
< 式 2-3a >(再掲)
を用いて確かめることができます。ここに Fji は 物体j が 物体i に及ぼす力であり、Fij は 物体i が 物体j に及ぼす力です。
〔 図 2-9 〕 に、物体A と 物体B および
FBA(ext) と
FAB(ext) を示します。二つの力は 大きさが等しく向きが反対 です。
物体の運動をその質量中心の運動で表すことにすると、上述したように、物体の質量中心に関する運動の三法則が成立することが示されました。
〔 図 2-10 〕)に、直交座標系 ( O
xyz ) の空間における物体、物体の質量中心、物体に作用する外力を再掲します。
物体の質量中心 C は、物体の内部において各々の粒子がどんな質量を有しどんな位置に配置されているか≠指定してやれば、質量中心の定義式;
rC ≡ (Σ
i miri)/
m
< 式 2-4 >(再掲)
から一通りの位置に定められます。
こうして、ニュートンの運動の三法則に関する第一の問題は、<物体を代表する点> という暫定的な位置に代わって、「物体の質量中心の位置」という明確な位置を与えることによって解決することができます。
物体に作用する力については、ます 物体の内部において各々の粒子にどんな大きさと方向を有する外力が作用しているか≠指定し、各々の力をベクトルで表します。続いて 各々の粒子に作用する外力をベクトルの加法の規則に従って加え合わせ、それを〔 図 2-10 〕に示すように、質量中心の位置 C に作用させます。
こうして、物体に作用する力とその作用点を明確に定めることができ、ニュートンの運動の三法則に関する第二の問題が解決されます。
以上のようにして、ニュートンの運動の三法則に関する 第一の問題 と 第二の問題を 解決することができました。ここで その結論をまとめて述べてみます:
◇ ニュートンの運動の三法則 −運動の第1法則、運動の第2法則、運動の第3法則− は、代数式で表すと
< 式 2-1 >、 < 式 2-2 >、 < 式 2-3 >
( ニュートンの運動の三法則 )
となります(
)。
◇ 粒子系のモデルを構成する個々の粒子について、ニュートンの運動の三法則と同形の法則が成立します。それらの式には、記号の a を付して
< 式 2-1a >、 < 式 2-2a >、 < 式 2-3a >
( 粒子に関する運動の三法則 )
とします(
)。
◇ 物体が粒子で構成されているとする粒子系モデルに基づいて 物体の質量中心 を定義すると、それらはニュートンの運動の三法則と同形の法則が成立します。それらの式には、記号の b を付して
< 式 2-1b >、 < 式 2-2b >、 < 式 2-3b >
( 物体の質量中心 に関する運動の三法則 )
とします(
)。
このように、運動の三法則は三つの述べ方≠ナ表すことができます。しかし、いずれも 式の形に表すと同形です。
〇 ニュートンは著書《プリンキピア》において、一貫して物体≠ニいう言葉を用いており、ここに示した物体 と 粒子≠ニいう使い分けはしていません。しかしながら、両方の主張する内容は基本的には同じです。ここでは 粒子系のモデルを導入して、《プリンキピア》の内容を精密に解釈しようとしているのです。
物体と物体 あるいは 物体の内部の 部分と部分 は、互いに力を及ぼします。この力を、
接触力 と
遠隔力 の二つに分けることができます
( 注 2-7 )。
接触力は 物体と物体 あるいは 物体の内部の 部分と部分 が接触したとき、接触した箇所を通して及ぼし合う力です。接触していない状態のときは 接触力は消滅します。これに対して 遠隔力 は、接触していない離れた状態であっても互いに及ぼし合います。接触力 と 遠隔力 の例を挙げてみます。
接触力
接触力は日常で絶えず出会う力です。私たちの身体の部分が物体と接触し、力を及ぼし合った場合には、接触した身体の部分を通してその力を感覚することができます。
◇ 手でボールを掴んで( つかんで )空中に投げ出すとき、手はボールから押される感じを受けます。手で押し出されるボールは、その反作用として、指先や手のひらと接触している面を通して反対向きの力を手に及ぼすからです(〔 図 2-11 〕 の (a))。ボールが手を離れた後には、手がボールから受ける力は消滅します(〔 図 2-11 〕 の (b))。
◇ 手で壁を押すと、接触した手の部分は壁から押される感じを受けます。手で押された壁は、その反作用として、接触面を通して反対向きの力を手に及ぼします。壁から手を離すと、手が壁から受ける力は消滅します。
物体が空間を移動するとき、物体は接触している周囲の固体、液体、気体などと接触力を及ぼし合います。
◇ 自動車が道路の上を走行するとき、自動車のタイヤと路面は接触面を通して接触力を及ぼし合います。この接触力は接触面に垂直な方向と平行な方向とに分けることができ、前者を垂直抗力≠ニいい、後者を摩擦力≠ニいいます。
路面が水平である場合には、路面からタイヤに及ぼされる垂直抗力は鉛直上方を向き、自動車の荷重を支える働きをします。路面からタイヤに及ぼされる摩擦力は水平方向を向き、自動車を推進させる力、あるいは、自動車を減速される力として働きます。
◇ 走行している自動車は、周囲の空気と接触面を通して接触力を及ぼし合います。この接触力は、自動車の進行方向とそれに垂直な方向とに分けることができます。前者のうち、自動車の進行方向に反対向きに作用する力は抗力≠ニ呼ばれ、後者は揚力≠ニ呼ばれます。
遠隔力
空間で離れた 物体と物体 あるいは 物体のなかの 部分と部分 が及ぼし合う遠隔力の代表的なものは
万有引力 (
universal gravitation )
あるいは別名で 重力 (
gravity )
です。地球の表面に住む私たちは何時も(
いつも)何処でも(
どこでも)地球から重力の作用を受けています。
遠隔力は三つの種類に分類されます。
◇ 一番目はすでに述べた 重力 で、質量を持つ物体どうしが及ぼし合う力です。二番目は電荷を持つ物体どうしが及ぼし合う電気的な力で、三番目は磁極を持つ物体どうしが及ぼし合う磁気的な力です。
◇ 遠隔力が重力、電気的な力、磁気的な力のどれであっても、力を及ぼし合う物体Aと物体Bの大きさが非常に小さいときには、力の大きさは同じ形の式で表されます。物体Aと物体Bが及ぼし合う力の大きさを
FBA(=
FAB) とすれば
FBA = k(sAsB)/rAB2
( 微小な物体Aと微小な物体Bが及ぼし合う遠隔力の大きさ )
となります。ここに、
rAB は 物体Aと物体Bの間の距離であり、
k、
sA、
sB は 定数 です。
◇ 上式の
FBA は、
sA と
sB を物体Aと物体Bの質量に選んだ場合には「万有引力の法則」になり、物体Aと物体Bの電荷に選んだ場合には「電気的なクーロンの法則」になり、物体Aと物体Bの磁極に選んだ場合には「磁気的なクーロンの法則」になります。これらの法則について、
《 遠隔力に関する法則と物理量 》 で改めて説明します。
重力、電気的な力、磁気的な力は、いずれも二つの微小な物体を結ぶ線分に沿った方向に作用します。二つの物体を引き寄せる方向に作用する力を
引力(
attractive force )といい、二つの物体を引き離す方向に作用する力を
斥力(
repulsive force )といいます。
物体Aと物体Bが及ぼし合う力をベクトルで
FAB および
FBA
し、
〔 図 2-12 〕)の上図に引力の場合を、下図に斥力の場合を赤い矢印で描きました。
◇ 重力はいつも引力として作用し、力の方向は〔 図 2-12 〕の上図に示すようになります。
◇ 電荷には 正(プラス)と 負(マイナス)の二種類があります。同種の電荷が及ぼし合う電気的な力は、〔 図 2-12 〕の下図に示すように斥力として作用し、異種の電荷が及ぼし合う電気的な力は、〔 図 2-12 〕の上図に示すように引力として作用します。
◇ 磁極には 正極(N極) と 負極(S極) の二種類があります。同種の磁極が及ぼし合う磁気的な力は、〔 図 2-12 〕の下図に示すように斥力として作用し、異種の磁極が及ぼし合う磁気的な力は、〔 図 2-12 〕の上図に示すように引力として作用します。
( 注 2-7 )「接触力」および「遠隔力」という言葉は、従来の力学の教科書や参考書であまり見かけませんでした。最近では、インターネット上でこの言葉が紹介され解説されるようになりました(《 参考資料 2-6 》)。ニュートン力学ではこの言葉は有用なものなので、以後これを用語として用いることにします。
《 改定 第2章 ―第3ステップ― 》では、粒子系のモデルを用いて導いた 物体の質量中心の運動方程式 から、ニュートンの運動の三法則と同形の「物体の質量中心に関する運動の三法則」を得ました。その結果として、<物体を代表する点>という暫定的な量に代えて「物体の質量中心」という明確な量が得られ、また 物体の各場所に作用する力を「物体に作用する外力」として明確に定義される量が得られました。
こうして 運動の三法則に関する問題が解決されるとともに、ニュートンの運動の三法則 が主張する内容を明瞭にすることができました。
≪ 改定 第2章 終了 ≫